モノローグ番外編1

* Musashi Side -1- *
記憶がなくなる。自分が誰なのかすらわからなくなる。
そんな出来事は、ドラマやマンガの中だけだと思っていた。
まさか自分の知り合いが、そんな事態に見舞われるとは。
しかも心を許した近しい仲間が。
その時までまったく俺は考えたこともなかった。

泥門デビルバッツは試合に向けて激しい練習をしていた。
本当にいいメンバーが集まったものだ。
アメフト部に復帰したばかりの俺はつくづくそう思っている。
部室の改築という名目で頻繁に出入りしている俺は、ずっと見てきた。
ヒル魔が集めた後輩どもは根性があると思う。
何だかんだ言いながらも皆つらい練習によくついて行っている。

一番の掘り出し物はやはりセナだろう。
よくもあれほどの足の持ち主を拾ったものだ。
アイシールド21などと勝手に名乗らされて。
しかもその名に負けない才能と根性がある。

ヒル魔とセナはいろいろなことがあって、今は恋人同士となっている。
俺にしてみると、同性を恋人にするという感覚はどうも理解できない。
例えばヒル魔と付き合う俺。もしくはセナと付き合う俺。
どちらも想像がつかない。

それでもヒル魔とセナが寄り添っている姿は微笑ましい。
悪魔のような男は、ふとした折に優しい目をしてセナを見ている。
部員の前では誤魔化しているつもりのようだが、バレバレだ。
そしてセナは、あのヒル魔をよく受け止めてやっていると思う。

2人のことはまぁともかく。
クリスマスボウルという目標のもと、部員全員が張り切っている。
そんな最中に事件は起きた。
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