＊＊　この作品は２０１９年のスーパーボウルの試合内容に準じております。＊＊


何だか試合前に疲れそう。
セナは心の中でこっそりとため息をついた。
だけどここまで来られた幸せに比べれば、些末なことだ。

今年のカードは、ＡＦＣ覇者ニューイングランド・ペイトリオッツ VS ＮＦＣ覇者ロサンゼルス・ラムズ。
セナはラムズのランニングバックとして、ついにスーパーボウルの舞台に立つ。
現地入りしたセナは、慌ただしい日々を過ごしていた。
開催されるまでの１週間は「スーパーボウルウィーク」と呼ばれ、とにかく盛り上がる。
音楽ライブやグルメイベントなど、開催地のみならずとにかく賑やかなのだ。

スーパーボウルウイークの幕開けを告げるのが、オープニングナイトだ。
出場チームの全選手、コーチ、オーナーなどが出席し、報道陣からの質問を受ける。
２０００人上の報道陣が集い、スポーツ以外のメディアまでもが殺到する。
さらに突飛な扮装をしてＮＦＬと関係のない質問をするメディアが出るのも恒例だったりする。
しかもチケット販売され、ファンがその様子を見ることができるようイベント化されていた。

その中でセナはとにかく注目を集めていた。
日本人というだけでも目立つのに、とにかく身体が小さく童顔。
まるでチビッ子がまぎれこんだ感じだ。
多くのメディアに囲まれたセナは、質問攻撃にあった。
英語である上に無遠慮な質問が多く、セナは笑顔を作りながらもぐったりと気疲れした。

その点、日本から来たメディアへの応対は気が楽だ。
多くのアメフト解説者やレポーターなどにインタビュー。
こちらは単純にセナを賞賛する質問が多いし、何より日本語で応対できる。
ＮＦＬ番組のＭＣを務めるお笑い芸人からのインタビューを受けた時には、地味にテンションが上がった。

やっぱり実際に経験すると、違うなぁ。
セナは今さらのようにそんなことを思う。
日本でテレビ観戦していた頃には、スーパーボウルウィークなんて知らなかった。
現地観戦の時にも「盛り上がってるなぁ」と感じただけだ。
だけど実際出場選手になると、こんなにも忙しい。

こんなときヒル魔さんがいたら、心強いのにな。
セナはぼんやりとそんなことを考えた。
質問の中には、好意的でないものも少なくない。
またはお前のような日本人の子供が何しにきたと、露骨に嘲るようなものもあったのだ。

そんな弱気じゃダメだ。
この程度の逆風、１人で笑ってクリアしなきゃ。
セナは気合いを入れながら、スーパーボウルウィークをやり過ごした。
シーズンが終わるまでは敵同士、だから絶対に会わない。
それが２人の暗黙のルールだった。