スーパーボウル last season(前)

** この作品は2019年のチャンピオンシップゲームの試合内容に準じております。**


あと少しで、夢に手が届く。
セナは得点が表示された電光掲示板を見上げる。
10-13、3点差まで詰め、後は逆転するだけだ。

アメフトを初めて約10年。
セナはついに夢であったNFLと本契約することができた。
NFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)のロサンゼルス・ラムズ。
セナはランニングバックとして活躍している。

覚悟はしていたが、簡単ではなかった。
日本でも小柄な身体で苦戦していたが、アメリカの選手はさらにデカくて強い。
初めてタックルされた時には、身体がバラバラになるかと思った。
しかもNFLでは珍しい日本人であることに差別もあったし、言葉の壁もあった。
何度、シーズン途中で日本に逃げ帰ろうと思ったことか。
悔しくて眠れない夜も数知れない。

だが今、チャンピオンシップの舞台にいる。
それだけで今までの苦労など、大したことではないような気さえした。
ここで勝てば、憧れのスーパーボウルに行ける。
NFLデビューの年に一気にスーパーボウルなんて、幸運を通り越して奇跡だ。

対戦相手はニューオーリンズ・セインツ。
そのことにセナはどこか運命的なものを感じていた。
高校時代はデビルバッツ、悪魔の名を冠し、悪魔の申し子と称されたチームにいたのだ。
そんな自分に最後に立ちはだかるチームがセインツ(聖者)とは、因縁めいている。
それ以前に自分のチームがラムズ(羊)であることは、らしいといえばらしいのかもしれないが。

試合はようやく前半を折り返したところだ。
第1クォーターは散々だった。
セインツに2つのキックとタッチダウンを決められ、0-13。
いきなり大差をつけられたのだ。

第2クォーターで、ラムズはペースを速めた。
ノーハドル、つまりハドル(作戦会議)なし。
サインとアイコンタクトだけでガンガン攻めていく。
キックとタッチダウンで10点を返して、10-13.
何とか3点差で、前半を終えることができた。

そのうちのタッチダウン6点を決めたのは、セナだった。
だからと言って、少しも喜ぶ気にはなれない。
なぜなら前半、セナはQBからのパスを2つもドロップした。
これを2つとも決めていれば、今頃リードで折り返せたかもしれない。

QBがヒル魔さんだったら、取れてたかも。
セナはそんな弱気なことを考えて、ブンブンと首を振った。
ヒル魔は今、敵なのだ。
この試合の後、AFC(アメリカン・フットボール・カンファレンス)のチャンピオンシップを戦う。
2人とも勝ち抜けば、スーパーボウルで相対することになる。
そんな相手を心に思い浮かべて、胸キュンしている場合ではない!

もうすぐ後半戦が始まる。
セナは深く深呼吸をすると、両手でパンパンと頬を叩いた。
絶対にスーパーボウルの舞台に立つ。
そのために今できる精一杯のプレイをするだけだ。
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