レーテーの雫ー前編ー
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どうも只者ではないらしい、口減らずなガキは、本題に入っても相変わらずだった。事務所から程遠い廃工場へバンを誘導すると、その工場のマンホールから地下道へ。まるで庭のように優雅に歩いて、決まった場所まで来ると、噛んだガムに小さなカプセル状の爆弾を包んで、天井へ貼り付けた。爆発音と共に木箱が落ちて、下水に跳ねた。この時ばかりは、背広が汚れるのではと気が気じゃなかった。
木箱にロープを結い付けて、自分たちは足場をたどりながら、水面の木箱を誘導する。楽な仕事だった。
なるほど、俺は得をしたが、コイツには誰と組もうが関係なかったらしい。計算し尽くしたような鮮やかな手さばきだった。そうやって運んで、入ってきたマンホールの下まで来るが、流石にこれを抱えては上がれない。
「流石にお前さんの用意周到さもここまでか?」
不満を呟くと、そのガキはニヤッと笑って、先にマンホールを出た。しばらく待っていると、紐にくくりつけられたバケツが降りて来た。その中にはバール。工場から見繕って来たらしい。
意図を汲んで、箱を開けて札束を汲み上げては上に渡す。暫く往復して、空になった木箱を下水に流した。
「大したもんだな。」
上に上がって率直に感想を述べると、ガキは子供のように笑った。廃工場は肌寒かった。倉庫の紙ゴミを集めた一斗缶へ火を放る。ようやく一息ついた。
ピラミッドのテストから、思えば何も飲み食いしていない。
「そのツナギに食い物が入ってりゃ、文句が無いんだが。」
「あるよ?」
ガキはどこからとなく、小さな芋をごろごろと取り出した。思わず笑いが漏れる。
「お前、やっぱり貨物列車のガキか?」
「ポールモールのおじさんだね。」
「あの芋くすねてきたんだな。」
「ちがうよ、知らない間に入ってたんだよ。」
歌うように言って、芋を湿らせた古新聞に包んで火に入れた。廃工場に非常用に備蓄されたままになっていた緩いミネラルウォーターを飲む。ガキは、芋が焼けるまで暇つぶしでもしようか、と、トランプを取り出す。
「なんかの漫画みてぇなポケットだな。」
「残念だけどこれしかはいってないよ。あとはチューインガムが4つばかり。」
木箱の上に腰掛けて、ポーカーを始めた。
「行き先まで一緒だったなんて、変な巡り合わせだね。」
「お前の狙いを聞かせてもらおうか?」
「狙い?」
「あんなゴロツキと仲良くなりたいわけじゃないだろ? それにこの周到さ。前準備なしじゃない。」
「そういう話題は、自分から打ち明けるのがマナーじゃない?」
「可愛くねぇガキ。」
「お芋欲しくないんだね?」
「分かったよ。…奴らの手中にある宝に興味があるんだ。」
ガキは帽子の下から瞳を覗かせた。
「どの宝。」
「順番ってのがあんだろ。次はお前が話す番だぜ。」
「…一番敵に回したくない人だったのに。」
「お前も目当ては同じなのか。」
「まぁ、そう。でも、絶対ほしいって訳じゃなくて、ええと、そう、興味がある。」
「場合によってはまた協定が結べるだろ。」
「どうかな、せーので言おう?」
俺としても、このガキを相手取りたくはなかった。
「せぇの、」
5枚のカードを放ると同時に答える。
「「レーテーの雫」」
カードはチョップ、いわゆる引き分けだった。
***