レーテーの雫ー前編ー
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「皆様には、早速次の試験に移っていただきます。次は実践を兼ねた訓練でして…。」
プロジェクターに地図や資料を写しながら、キツネのような男は続ける。
内容的にはこの地域のあるギャングの金庫から金を巻き上げるというミッションで、2人1組で着手。最初に上がりを持ってきたペアが無事入団、というものだった。
顔に傷の大男小男はもうペアになったも同然、キツそうな女は品定めするように俺たちを眺め、刺青の男を指名した。余ったガキと顔を見合わせると、ガキは興味なさげに風船ガムを膨らませた。
「まず、この事務所への足ですが、この三種類からくじ引きで決定しま〜す。各ペア、代表者引いてくださ〜い。」
用意されたのは、バン、二人乗りのバイク、そして自転車。ふざけてやがる。
「…ガキ、お前、くじ運はあるほうか?」
「残念ながらないどころかマイナス値まである。」
ガキは風船ガムを膨らませたまま答えた。仕方がないのでクジを引くと、案の定自転車だった。
「チクショウ、ツいてねぇな。」
ガキのほうはまたもふわふわとあくびをしている。
「さぁ、位置についてください!」
キツネ男はまるでテレビの司会者のようだ。男の高音が耳にキンキン響く。
仕方なく自転車にまたがると、荷台に乗ったガキが耳打ちした。
「最初の10分かそこら、全速力で漕いでもらえる?」
「どんな健脚でも鉄のお馬と塊には追いつかんだろうよ。」
「追いつかなくていいよ、距離を稼いでくれれば。あとできれば、追い抜かれる時に、バンの後ろに穴を開けて欲しい。出来れば高い位置に。」
腰元の拳銃に触れられた。そっちは自転車漕ぎより得意だ。
全貌はわからないが、何か企みがあるらしい。よくわからない企みに乗るのは、不本意ながら慣れている。とんでもねぇ泥棒を相棒にすると。この場はこのつかみどころのないガキに掛ける事にした。
「よーい、スタート!」
先陣を切ったのはバイクに乗った傷の男たちだった。バンはどういう訳か、セルモーターが音を立てるばかりでエンジンがかからないらしい。
ノロノロと自転車を走らせると、後ろでガキが荷台の上に立ち上がった。やがてようやくバンのエンジンがかかったらしく、追い越してきたその時。
荷台の上のクソガキは消えていた。
正確には、すれ違い様にバンの上に飛び乗ったのだ。慌てて拳銃で後ろをブチ抜く。あっという間にバンは小さくなった。
やれやれ、どうしろというのか。
仕方なく跡を追って自転車を漕ぐと、程なくしてバイクの二人組が寝転んでいる。転倒したらしい。横目に見ると、タイヤが激しくパンクしている。破れかぶれのタイヤには、ピンク色のガムが張り付いていた。ガキの膨らませていた風船ガムと同じ色の。いつの間にか細工をしていたらしい。
またしばらく自転車を走らせた。汗で張り付く背広を脱いで、また走らせて。ようやくバンに追いついた。ガキは、バンから女と男を引きずり下ろしている所だった。どういう訳か顔にはガスマスクだ。
「お早いお着きで。」
「どういう了見だ?」
「空けてもらった穴に睡眠ガスをお見舞いしただけだよ。換気するからちょっと待ってて。」
程なくしてガキはガスマスクを外し、手招きした。バンに乗り込んで空調を効かせる。自転車で漕ぎっぱなしだったのだ、暑くて叶わない。
「随分余裕じゃねぇか。」
「おじさんこそ、いい運動になったでしょ?」
「口のへらねぇガキだな。」
「どういたしまして。」
***