レーテーの雫ー前編ー
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ガビアルとはこの地方の盗賊団の一派だ。鰐の一種を名乗るこいつらは、この地域一帯を牛耳っており、こっちの社会の人間は相手にしたがらない。というのも、政財界との繋がりが強く、彼らがのさばる乾燥地域では、地の利がものをいう戦況を強いられる。やたらと数ばかり多い奴らを相手にするのは、なかなかのリスクがある。
ルパンから聞いたこの一団の名前に、どうしようもなく引っかかるものを覚えた俺は、筋から入団テストなるものがある情報を手にした。
何が自分を突き動かしているかは分からない。ただ、レーテーの雫を一目見れば、気も済むだろうと思ったのだ。この、なにか大切なものを忘れているような焦燥感に。今までの日々を彩っていたものを失ったような消失感に。
若い頃はこんな荒仕事もよくやったが、近頃はもうやらない。仕事に信頼の置ける仲間が出来たし、こんなリスクを無鉄砲に背負うには歳を取りすぎた。
そんな感傷を味わいながら、偽った経歴を片手に、貨物列車の荷台に潜り込む。土臭いジャガイモを入れた麻袋が山のように入ったその荷台に、適当なスペースを作って寝転ぶと、頭の下の麻袋が小さく悲鳴を上げて蠢いた。思わずギョッとして距離を取る。
「悪いけど、この貨物、一人用なんだ。」
暗くてよく見えないが、ジャガイモ袋に身を畳んだ小柄な人間がいたらしい。眠たげな声の感じは子供っぽい。全く気配が無かったことに驚く。
「驚いたな、全く気配が無かったぜ。」
「そりゃどうも。無下に争いたくはないんだ、悪いけど、移動してくれないかな。」
「勘弁してくれ、俺だって疲れてるんだ。枕にしたのは悪かったよ。」
床に胡座をかいて座り直し、煙草に火を付ける。僅な明かりで、相手の顔が見えたような、見えないような。
「おじさん、どこに行くの。」
「おじさんは止せよ、ガキ。」
「お兄さんって呼ばれたい訳?」
「何でもいいが。お前はどこに?」
迷っているのか、一瞬の沈黙の後、ガキは今から自分も向かう、地獄のような治安の地方の名前を告げた。
「…仕事でね。」
「ほう、奇遇だな。」
「火薬のにおうおじさんと思ったら、やっぱり同業者?」
「そんなところだ。」
「そっか、そんなら話早いや。取引しない? 交代で夜の番をする。この辺治安悪いから、寝込み強盗が心配でしょ?」
「ほう、そいつは願っても無い。だがいいのか?顔も見たことない男と取引なんて、無謀だぜ、お前さん。」
「自分でもよく分かんないけど、アンタのことは信頼できるって気がしたんだ。野生の勘ってヤツかな。…土台心細くはあるんだ、こっちの地帯に飛び込むことに。」
「訳ありらしいな。」
「おじさんこそね。声の感じからすると、ワルに無謀に憧れるって感じの若輩者じゃないでしょ。」
「察しがいいことで。」
「協定成立? 煙草もらえる?」
承諾の証に火を付けたばかりの煙草を差し出すと、暗闇が受け取った。深く吸い込む吐息がして、胸が締め付けられるような声がした。
「ポールモール か、なんか懐かしい気がする。」
***