レーテーの雫ー前編ー
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何かを忘れている。そんな気持ちが拭い去れない日々が続いていた。酒をやっても、煙草を何本吸っても、満たされる気配は一向にない。女で気を紛らわせようとすると、不思議に罪悪感が湧いてくる。
「なぁ、ルパン。何か知ってるんじゃねぇか、お前。」
「さァな。気のせいじゃねぇか。」
仕事仲間に聞くと、湿っぽい声でいつも同じ返事だ。苛立ちに煙草をきつく噛んだ。
霧雨の止まない今日は、悪党どもは開店休業といった風情で、だらしなく時間が流れている。仕方がないからたまにはアジトの整頓でもするかと、うず高く積まれた仕事の資料に手をつけた。
ふと、獲物の目星に、と、相棒が折り目をいっぱいにつけた古い冊子が目に入った。某博物館の収蔵目録。何気なくパラパラとめくり、その一つが目を惹いた。
『レーテーの雫』
ーーー「忘却」、もしくは「真実」。
黄泉の川の一雫と銘打たれたこの宝石は、その名の通り記憶に関する逸話が絶えない。通説では、これを手にした白痴の老人は、あらゆる記憶を取り戻し、また、当時最も信頼を置かれた判事は、この雫の輝きで全てを忘れ、物乞いに身を落した、と言われる。
開いた冊子を盗み見た相棒が気がなさそうに告げた。
「その辺一帯の宝石はアイツらが持ってっちまってるからな。」
「アイツら?」
「ガビアルの一派だよ。」
欠伸交じりに、お前、アイツらとはもう関わり合いになりたくないっつっただろ?と続ける。行動に理由がついた。そんな口を叩いた覚えはない。
***