ニコチアナの花
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「苦しみながら生きるのと、楽に死ぬのと、どっちがマシだと思う?」
かもめは家屋に火を放ちながら呟くように尋ねた。短くなった最後の一本のマルボロを吐いて答える。
「さぁな。どっちにしたって、自分で選ぶしか無いだろう。他人が決めていいことじゃねぇ。」
女領主の最期の願いとは、村の痕跡を跡形もなく消してほしい、というものだった。恥ずべき我々の歴史をこの世から消してほしいと。
そんなことしたってなかったことにはならない、そう言いたかったが、死にかけの人間を前に、そう言ってやれるほど俺たちの神経は太くなかった。
禁断症状を起こした村民の多くは、手のつけようがなく、殆どが本土の警察に銃殺されたという。
畑には俺らで塩を撒き、村にはこうして火を放った。
かもめは頷いて、続ける。
「でも次元、私いくらでもあっち側にいた可能性があるの。ほんの偶々、運が良くて、次元たちに会えて、希望を失わずに済んだけど。」
炎を反射して、かもめの首元に、あの日渡した石が揺れる。
「希望を失って、星もない真っ暗な砂漠を彷徨うのは、寒くて怖くて苦しいよ、朝が来るなんて信じられないよ、楽になりたいと、思うよ。」
かもめが遠くに行ってしまいそうで、思わず腕を掴んだ。
「朝は、待ってる奴にしか来ねぇ。」
体は掴んでいるのに、その指の隙間を乾いた砂のようにすり抜けて行く錯覚がした。搔き集めるように体を抱く。
「どんなに長い冬でも、長い夜でも、終わりが来る。絶対に。永遠なんて無いって、お前だって知ってるだろ。瞬間の積み重ねだ。」
小さな相棒は、時々こういう暗闇の迷子のような顔になる。今まで誰もいなかったのだ、こいつの手を引いてくれる相手が。親だったり、師だったり、なんらかの導きをくれる相手が。
一人で、ふらふらになりながら、それでも歩いて来たのだ。ここまで。
「永遠なんてアテにならねぇもんは信じなくていい、だが、今この瞬間は信じられるだろ?」
「…次元、私、貴方に抱かれてると、眠くなるの。」
出会った頃から、一緒に居ると、時々糸が切れたように眠る女だった。
「あったかくて、たばこのにおいがする。こんなに安心できる場所、生まれてはじめてよ。こんなに心落ち着く瞬間が、自分の人生にあるなんて思わなかった。」
弱々しくも、細い腕が背中に回った。
俺だって、銃を振るい過ぎて鉛のように重く冷たくなった心が、こんなに柔らかくなる瞬間があるとは思いもしなかった。鼻先を甘く擽る幸福の香りを知ることになるとは、思いもしなかった。
「永遠なんて信じてないけど、これだけは信じられる。あなたと出会ったことは、絶対に後悔しない。」
こと切れたように力が抜けて、胸元に倒れたかもめを抱き起こせば、案の定すやすやと眠っている。世話が焼ける、と思いながら、満更嫌じゃない。肩に担ぐと、小さな声が耳に落ちた。
「愛してる、次元…。」
小さな体を、弾みをつけて担ぎ直す。
「俺もだよ、かもめ。」
***
かもめは家屋に火を放ちながら呟くように尋ねた。短くなった最後の一本のマルボロを吐いて答える。
「さぁな。どっちにしたって、自分で選ぶしか無いだろう。他人が決めていいことじゃねぇ。」
女領主の最期の願いとは、村の痕跡を跡形もなく消してほしい、というものだった。恥ずべき我々の歴史をこの世から消してほしいと。
そんなことしたってなかったことにはならない、そう言いたかったが、死にかけの人間を前に、そう言ってやれるほど俺たちの神経は太くなかった。
禁断症状を起こした村民の多くは、手のつけようがなく、殆どが本土の警察に銃殺されたという。
畑には俺らで塩を撒き、村にはこうして火を放った。
かもめは頷いて、続ける。
「でも次元、私いくらでもあっち側にいた可能性があるの。ほんの偶々、運が良くて、次元たちに会えて、希望を失わずに済んだけど。」
炎を反射して、かもめの首元に、あの日渡した石が揺れる。
「希望を失って、星もない真っ暗な砂漠を彷徨うのは、寒くて怖くて苦しいよ、朝が来るなんて信じられないよ、楽になりたいと、思うよ。」
かもめが遠くに行ってしまいそうで、思わず腕を掴んだ。
「朝は、待ってる奴にしか来ねぇ。」
体は掴んでいるのに、その指の隙間を乾いた砂のようにすり抜けて行く錯覚がした。搔き集めるように体を抱く。
「どんなに長い冬でも、長い夜でも、終わりが来る。絶対に。永遠なんて無いって、お前だって知ってるだろ。瞬間の積み重ねだ。」
小さな相棒は、時々こういう暗闇の迷子のような顔になる。今まで誰もいなかったのだ、こいつの手を引いてくれる相手が。親だったり、師だったり、なんらかの導きをくれる相手が。
一人で、ふらふらになりながら、それでも歩いて来たのだ。ここまで。
「永遠なんてアテにならねぇもんは信じなくていい、だが、今この瞬間は信じられるだろ?」
「…次元、私、貴方に抱かれてると、眠くなるの。」
出会った頃から、一緒に居ると、時々糸が切れたように眠る女だった。
「あったかくて、たばこのにおいがする。こんなに安心できる場所、生まれてはじめてよ。こんなに心落ち着く瞬間が、自分の人生にあるなんて思わなかった。」
弱々しくも、細い腕が背中に回った。
俺だって、銃を振るい過ぎて鉛のように重く冷たくなった心が、こんなに柔らかくなる瞬間があるとは思いもしなかった。鼻先を甘く擽る幸福の香りを知ることになるとは、思いもしなかった。
「永遠なんて信じてないけど、これだけは信じられる。あなたと出会ったことは、絶対に後悔しない。」
こと切れたように力が抜けて、胸元に倒れたかもめを抱き起こせば、案の定すやすやと眠っている。世話が焼ける、と思いながら、満更嫌じゃない。肩に担ぐと、小さな声が耳に落ちた。
「愛してる、次元…。」
小さな体を、弾みをつけて担ぎ直す。
「俺もだよ、かもめ。」
***