ニコチアナの花
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困り顔の女は、担当の別の女達に連行されて、試着室に消えて行った。勧めたはいいものの、所在ない。一服入れたいが、さすがにここでは憚られる。かもめにしつこく試着を進めた営業の女が声を掛けて来た。
「お父様ですか?」
「あんたにゃそう見えんのか?」
散々言われ尽くした誤解に、思わず突っ慳貪な返事をしてしまう。女は一瞬だけキョトンとして、微笑んだ。
「…いいえ。何かもっと別な、特別なご関係ですね?」
物分かりの良さに、思わず笑いが込み上げて来た。恋人、と簡単に呼ばないあたりに、配慮を感じる。
「まぁな、そんな所だ。姉ちゃん分かってんじゃねえか。」
「ええ。営業長いですから。人とドレスを見る目は確かです!」
「ドレスねぇ…。」
所狭しと並べられたドレスに目を移す。
「あんた、さっきドレスが呼んでるっつってたな。」
「ええ。ドレスが人を呼ぶ瞬間ってあるんですよ。」
「呼んでたのか?」
「ええ。それはもう悲鳴のように!」
ロビーのテレビには、件の婚礼の特集なのか、荘厳なドレスが映し出された。途端に女の顔は曇り、憂鬱そうに声を出す。
「…気がかりなのは、あのドレスです。」
「聞こえるのか?」
「聞こえないからですよ!」
曇った顔が一変して忿怒の表情になり、随分表情の豊かな女だと感心してしまう。
「ドレスは本来、女性を幸せにするためにあるんです。どんなドレスにも声があります。特にウエディングドレスなんか、幸せになるために誰かを呼び続けています。なのにあのドレスには何の声も聞こえない。声がしないドレスを纏った結婚というものは、大概何か確執があるものです。…私分かるんです。営業、長いので!」
「あの…。」
後ろから蚊の鳴くような声がした。
***