ニコチアナの花
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五ヱ門に島の裏手を案内されて、目を丸くした。表のいかにも健康的なリゾートビーチとは打って変わって、何もかもがどぎついネオンカラーで彩られた風俗街。やはりタバコを特産としているからなのか、喫煙者の俺でさえむせ返るほど、タバコの煙で空気が霞んでいる。
「お兄さんたち、遊んで行かない?」
だらしなく服を着崩した、褐色肌の女たちが、妖艶に誘って、手を振り袖を引く。
「悪いな、間に合ってるよ。」
「あらやだ、冷たいわね。」
こういう場に女が足を踏み入れれば、露骨に嫌な顔をするものだが、かもめはどこか神妙な面持ちであたりを注視している。
「お前、アッチも世話になったのか?」
かもめに聞こえないように聞けば、わかりやすく五ヱ門は顔を赤くして咳払いをした。
風俗街を抜けて、だだっ広いタバコ畑に出る。
かもめはすぐさま畑のタバコに手を伸ばした。驚いたような面持ちで、何かを確かめるように葉を触っている。
「何だ?」
「ニコチアナ・ルスティカだよ。珍しい。」
「何か違うのか?」
「普通一般的にタバコとして栽培されているのは、タバカム種のタバコなの。ルスティカ種は、ニコチンがタバカムの10倍近くもある。栽培が難しくて廃れたって聞いてたけど。味も悪いらしいし。」
流石専門家というべきか。こういう話題には饒舌になる相棒だ。
「クリストフ財閥とこの村の長の女が結婚した場合、このタバコ畑もまるっと財閥の手中に入るって訳か?」
「実際には、タバコの植わる土地だな。観光地化を進めたいのだ。近年タバコ産業は下火であるし。」
「すると、元々タバコ産業を営んでいたここの人たちは職を失うってこと?でも観光地化したらそれなりに仕事が生まれるんじゃないの?」
ちょっと納得がいかない、というようにかもめが口を尖らせた。
「…拙者からは、何とも説明がし難いのだ。実態を見てくれないか。」
畑を抜ければ、件の原住民たちの集落に出た。風俗街ほどではないにせよ、こちらでも煙をモクモクと吹かしている。よほど愛煙家の多い国なのか。
しかし、住民の貧しさは想像を超えたもので、リゾート地からほんの数キロ離れただけとは思えない、あばら家のような家が立ち並ぶ村だった。働き手が出払った村には、子供と老人ばかりだ。そして驚きなのは、貧しさとは相反するほどに、住民が幸せそうに穏やかなのだった。
どいつもこいつもやせ細っているのに、飢えに苦しむ様子もなく、穏やかな雌牛のような目をしている。
「拙者が以前訪れた時は、こんな様子ではなかった。貧しくはあれ、覇気のようなものがあった。搾取されていることに無自覚ではなかった。」
落し物なのか、道端に住民の吹かすタバコの箱が落ちていた。「スランバー・パーティ」。見たことのない銘柄だ。開けると、まだ3本ばかり残っている。一本手に取ると、かもめがその手を押さえつけた。
「絶対に吸っちゃダメ。」
***
「お兄さんたち、遊んで行かない?」
だらしなく服を着崩した、褐色肌の女たちが、妖艶に誘って、手を振り袖を引く。
「悪いな、間に合ってるよ。」
「あらやだ、冷たいわね。」
こういう場に女が足を踏み入れれば、露骨に嫌な顔をするものだが、かもめはどこか神妙な面持ちであたりを注視している。
「お前、アッチも世話になったのか?」
かもめに聞こえないように聞けば、わかりやすく五ヱ門は顔を赤くして咳払いをした。
風俗街を抜けて、だだっ広いタバコ畑に出る。
かもめはすぐさま畑のタバコに手を伸ばした。驚いたような面持ちで、何かを確かめるように葉を触っている。
「何だ?」
「ニコチアナ・ルスティカだよ。珍しい。」
「何か違うのか?」
「普通一般的にタバコとして栽培されているのは、タバカム種のタバコなの。ルスティカ種は、ニコチンがタバカムの10倍近くもある。栽培が難しくて廃れたって聞いてたけど。味も悪いらしいし。」
流石専門家というべきか。こういう話題には饒舌になる相棒だ。
「クリストフ財閥とこの村の長の女が結婚した場合、このタバコ畑もまるっと財閥の手中に入るって訳か?」
「実際には、タバコの植わる土地だな。観光地化を進めたいのだ。近年タバコ産業は下火であるし。」
「すると、元々タバコ産業を営んでいたここの人たちは職を失うってこと?でも観光地化したらそれなりに仕事が生まれるんじゃないの?」
ちょっと納得がいかない、というようにかもめが口を尖らせた。
「…拙者からは、何とも説明がし難いのだ。実態を見てくれないか。」
畑を抜ければ、件の原住民たちの集落に出た。風俗街ほどではないにせよ、こちらでも煙をモクモクと吹かしている。よほど愛煙家の多い国なのか。
しかし、住民の貧しさは想像を超えたもので、リゾート地からほんの数キロ離れただけとは思えない、あばら家のような家が立ち並ぶ村だった。働き手が出払った村には、子供と老人ばかりだ。そして驚きなのは、貧しさとは相反するほどに、住民が幸せそうに穏やかなのだった。
どいつもこいつもやせ細っているのに、飢えに苦しむ様子もなく、穏やかな雌牛のような目をしている。
「拙者が以前訪れた時は、こんな様子ではなかった。貧しくはあれ、覇気のようなものがあった。搾取されていることに無自覚ではなかった。」
落し物なのか、道端に住民の吹かすタバコの箱が落ちていた。「スランバー・パーティ」。見たことのない銘柄だ。開けると、まだ3本ばかり残っている。一本手に取ると、かもめがその手を押さえつけた。
「絶対に吸っちゃダメ。」
***