ニコチアナの花
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小さな背中をこちらに向けて、出会った頃よりも長く伸びた髪を風に遊ばせ、かもめは続けた。
「さーねぇ、どっかで生きてはいるんだろうけど。」
「随分他人事じゃねぇか?」
「家族なんて、所詮血の繋がった他人じゃない?」
「そりゃそうだが、そう割り切れないもんだろ。」
「…一番苦しい時に、見放してきた人間へ、まだ期待を寄せる方法があるなら、教えてほしいもんだわ。」
「悪いこと聞いちまったか?」
「そうでもないよ。ただ、親も子供も互いを選べないってだけの話。向こうだって私みたいなのが生まれてきて迷惑だったろうし。」
今日の天気の話でもするように、淡白に感情を交えずそう語るかもめは、本人も気づかないどこか深くに傷跡を隠しているようにしか見えなかった。
自分の存在を、当たり前のように「迷惑」と語る女に、その短い生涯でどんな思いをしたのか、想像もつかない。
「お前は、迷惑じゃねぇよ。」
考えなしに出た言葉に、かもめは瞳を揺らした。その瞳を、ゆっくり楕円形にして囁く。
「ありがとう?」
伸ばした手が、まだ心の奥にも届いていない気がして、言葉を紡ぐ。
「俺たちに、迷惑だの迷惑じゃないのって関係はナシだ。」
二人を説明する関係は無い。お互いの足枷になりたくないからだ。でも俺たちは他人か?血も繋がらない。
「…なんか、あんまりそんな優しいこと言わないでくれる?具合が悪くなりそう。」
「優しいことでもなんでもねぇよ、もっとシンプルな話だ。」
そこまで言って、言葉が続かずに、たばこを一服した。腹が立つほど青い空に、シケた煙が溶けていく。こういうのは得意じゃない。
「…お互いを気に入ってるから一緒に居る、それで充分だろう。選べない家族とは違ってな。」
照れ臭さを噛み殺して続ければ、かもめはクスリと笑った。その喉の奥をコロコロと鳴らすような笑い声が、俺はたまらなく気に入ってる。
「もっと素直に言えばいいのに、好きだから、一緒にいようって。」
胸元に頭を擦り付けて、かもめは囁いた。顔を見合わせて、啄ばむようなキスをする。
「私も、次元のこと気に入ってるよ。」
「そりゃありがとよ。」
しばらく煙を眺めた後で、かもめは鼻歌混じりに歌い始めた。聞き覚えのある旋律だ。確か、マイフェイバリットシングス…私のお気に入り、か。
だが、歌詞がデタラメだ。
覚えてない所を適当に誤魔化して歌うのはいつものことだが、もはやオリジナルになったその歌詞のこそばゆさに、帽子を深く被り直した。
こちらの気も知らないで、かもめはフニャフニャと適当な歌詞を囀る。
帽子にかかった雨粒と顎髭
ピカピカの革靴と真っ黒なスーツ
タバコの味のするキス
みんな私のお気に入りのひとかけら
***
「さーねぇ、どっかで生きてはいるんだろうけど。」
「随分他人事じゃねぇか?」
「家族なんて、所詮血の繋がった他人じゃない?」
「そりゃそうだが、そう割り切れないもんだろ。」
「…一番苦しい時に、見放してきた人間へ、まだ期待を寄せる方法があるなら、教えてほしいもんだわ。」
「悪いこと聞いちまったか?」
「そうでもないよ。ただ、親も子供も互いを選べないってだけの話。向こうだって私みたいなのが生まれてきて迷惑だったろうし。」
今日の天気の話でもするように、淡白に感情を交えずそう語るかもめは、本人も気づかないどこか深くに傷跡を隠しているようにしか見えなかった。
自分の存在を、当たり前のように「迷惑」と語る女に、その短い生涯でどんな思いをしたのか、想像もつかない。
「お前は、迷惑じゃねぇよ。」
考えなしに出た言葉に、かもめは瞳を揺らした。その瞳を、ゆっくり楕円形にして囁く。
「ありがとう?」
伸ばした手が、まだ心の奥にも届いていない気がして、言葉を紡ぐ。
「俺たちに、迷惑だの迷惑じゃないのって関係はナシだ。」
二人を説明する関係は無い。お互いの足枷になりたくないからだ。でも俺たちは他人か?血も繋がらない。
「…なんか、あんまりそんな優しいこと言わないでくれる?具合が悪くなりそう。」
「優しいことでもなんでもねぇよ、もっとシンプルな話だ。」
そこまで言って、言葉が続かずに、たばこを一服した。腹が立つほど青い空に、シケた煙が溶けていく。こういうのは得意じゃない。
「…お互いを気に入ってるから一緒に居る、それで充分だろう。選べない家族とは違ってな。」
照れ臭さを噛み殺して続ければ、かもめはクスリと笑った。その喉の奥をコロコロと鳴らすような笑い声が、俺はたまらなく気に入ってる。
「もっと素直に言えばいいのに、好きだから、一緒にいようって。」
胸元に頭を擦り付けて、かもめは囁いた。顔を見合わせて、啄ばむようなキスをする。
「私も、次元のこと気に入ってるよ。」
「そりゃありがとよ。」
しばらく煙を眺めた後で、かもめは鼻歌混じりに歌い始めた。聞き覚えのある旋律だ。確か、マイフェイバリットシングス…私のお気に入り、か。
だが、歌詞がデタラメだ。
覚えてない所を適当に誤魔化して歌うのはいつものことだが、もはやオリジナルになったその歌詞のこそばゆさに、帽子を深く被り直した。
こちらの気も知らないで、かもめはフニャフニャと適当な歌詞を囀る。
帽子にかかった雨粒と顎髭
ピカピカの革靴と真っ黒なスーツ
タバコの味のするキス
みんな私のお気に入りのひとかけら
***