私を月に
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スピーカーから流れるのは、あの日の会話。カウンセリング中に私が集めた、人の本音のコレクション。
『そう…そうなのよ、分かってくださる?あのつまらない男。ロマンに欠けた大男。』
『私は構いませんけど、そんな言い草で大丈夫ですか?外に聞こえちゃうかも。』
『いいのよ。ここは私の管轄だもの。盗聴器なんてないわ。それよりも聞いてちょうだい…』
続く今は亡きボスへの罵詈雑言。取り巻く部下は騒めきはじめた。女は震える手で銃口を私に向ける。
「この…ッ 小汚いドブネズミ!」
「私はちゃんと忠告したよ?誰かに聞かれちゃうかもってね。」
『あんな奴、チャンスがあったらいつでも殺してやるわ。』
スピーカーから流れる決定的な一言に、女が引き金に指を掛けたその瞬間。1秒にも満たないその動きを読んで、弾丸が銃を弾き飛ばした。弾き飛ばされたマグナムに視線を向ければ、見慣れたピカピカの革靴。
「次元。」
大きなスピーカーを肩に担いで現れた次元は、片手に私の託したコルトを握っていた。銃口から立ち上る煙をふっと吹いて、その銃口で帽子を上げた。
奇声をあげて飛びかかろうとする女を、取り巻きが抑える。重鎮らしき黒服が次元に頭を下げた。他の取り巻きが私の縄を解きに掛かる。
「非礼を詫びよう、次元大介。」
「だから俺は言っただろ、何もしらねぇってな。…女房は返してもらう。」
次元は担いだスピーカーを投げ捨てて、足元のマグナムを拾い上げた。私を立たせようとする取り巻きを手でまるで集る虫でも払うように邪険に追い払った。
「触るんじゃねぇ。」
「この埋め合わせは、必ず…。」
「お前らのハリボテみてぇな埋め合わせなんぞごめんだね。」
次元は私のふらつく肩を支えて、奇声を上げる女を振り返りもせずに歩みを進めた。
つぎの瞬間。
けたたましいサイレンが鳴り響いた。