私を月に
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ーーーさて、ついたはいいが。どうやって奪還しようか。今日の昼訪れたことが幸いして、大体の建物の作りは把握しているけれど。
侵入したい方と逆位置に小型の爆弾を仕掛ける。本命の侵入口の通風口にそれよりもずっと小型の爆弾を仕掛け、同時に爆破する。
派手な破裂音の一瞬ののち、けたたましく警報機が鳴り出した。
警備がダミーの爆弾に気を取られているうちに、通風口を這って進む。昼間訪れた綺麗な拷問室の上まで行くと、通風口の金網から捕まってる次元が見えた。
生きてる。
脳裏に浮かべたほどのひどい怪我もない。良かった…。安心で一瞬緩んだ心を引き締めて、部屋の様子を観察する。
警備は二人。音を立てないようそっと金網を持ち上げ、上体をぶらんと下ろし、コルトを2発お見舞いした。
「ヤッホー、次元。」
だいぶ高い天井だったので、降りると足がビリビリした。不細工に彼を縛る麻縄にナイフを突き立てる。大きな怪我はしてないみたいで安心する。
「次元、捕まるの得意じゃん。」
先ほどまで私を支配していた、押しつぶされそうな不安を悟られたくなくて、憎まれ口を叩いてみるが、いつものように気の利いた返しは戻ってこない。
「マグナムは?」
「どこにあるかわからねぇ。」
探しているヒマはない。私のコルトを投げた。丸腰よりましだし、どんな銃でも私より似合う男だ。ドアに身を隠しつつ、手榴弾を放って、それでも立っている敵には次元が狙撃して、無言の連携で出口へ進む。
足がちぎれるほど走って、子犬のように私を待つドゥカティに飛び乗る。
ぶるん、エンジンがかかるまでのタイムラグ、ハンドルを握ってから速度が上がるまでの一瞬が、もどかしいほど長く感じた。
はやく、はやく、はやく。
出来るだけ遠くへ!
しばらくフルスロットルで走り、やっと振り切った。緊張が切れて、一瞬目の前が暗くなる。後ろから次元がハンドルに手を添えた。夕飯に飴玉しか食べなかったことを後悔する。
「お前、よく居所がわかったな。」
「今度からはもっとお互いの仕事についてちゃんと話そう。…だいぶ苦労したよ。」
本当にくたびれた。スピードを緩めて、次元と前後を交代する。大きな背中にぎゅっと抱きついた。…無事でよかった。本当に。
じわ、と滲む涙を、かれの夕闇のように暗い色のスーツにそっと隠した。
「…なんで自分が捕まったかわかってる?」
今までどれだけの人間をその手に掛けたか分からない。でもどこか非常になりきれない、人間臭い男なんだ。
人を絶えず疑いながら、それでも心の奥で信じられる何かを待っている。希望を持ってる。愚かで、優しい男なんだ。
私の好きな人。
広い背中の彼は、予想通りの答えを投げた。
「…それが、全く分からねぇ。」
やっぱりね。よく知ってる。
私の大好きな愚か者。
「ニブチン。」
「あぁ?」
***