私を月に
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依頼主には、女性が殺されることを怯えていることを前提に伝え、外に男ができた、ではなく、あなたから気持ちが離れている、と伝えた。ま、嘘じゃない。あとはおねーさんの運次第。
予定より仕事が早く終わったので、夕食を一緒に食べられないかと次元に電話をかけてみるが、繋がらなかった。
なんだか胸騒ぎがした。
食事がろくに喉を通らず、でも何も食べないと体力が落ちるから…と、結局お菓子を買ってしまった。エスプレッソ味の飴玉は、今朝の食事を思い出させていっそう苦い。
ホテルの窓から路地を眺める。帽子の人影にいちいちドキッとする。
日が沈んでも、次元からの連絡はない。
やっぱり、無謀だった?二人の暮らしは。
立ち上る悪い予感をほろ苦い飴玉と一緒にガリガリと噛み潰す。出来ることをやるしかない。彼の歩幅に会うように、今の私に出来ること。
今日の仕事のこと、もっとちゃんと聞いてればよかった。今朝軽く聞いた時には、昨日警護した要人の依頼って言ってたけれど。昨日の式典ーーお葬式、って言ってたな、確か。
この地方のマフィアは葬儀に対するこだわりが強いことで有名だ。葬儀はおよそ3日に渡り執り行われる。
1日目は特に重要で、要人が亡くなった時には、そのファミリーはもちろん、同盟関係にあるファミリーが総出で出席しなければならない。古い掟があるのだ。
裏社会のマフィア達が表通りを派手な霊柩車でパレードし、プロペラ機で花びらを撒いて散々なニュースになったのは記憶に新しい。
この町近郊で大きな葬儀場を調べる。
ボスクラスの要人が亡くなったと話していたので、よほど大きな葬儀場でないといけない。それでいて極力目立たないような。
候補をいくつかチェックし、地図に丸をつけた。
つなぎの下に火薬とナイフ、私のコルト、手榴弾。念のため、マグナムの弾丸を少し忍ばせた。ドゥカティで走る道すがら、白いユリを一輪摘んだ。
葬儀場から離れた位置にバイクを止めて、わざと大げさに走って行った。夜更けだと言うのに、昨日式典があったであろう葬儀場にはたくさんの人影があった。よほど慕われていたのだろう。祭壇に近づくと、黒服の男たちに行く手を阻まれる。肩で息をしながら、献花に持ってきた花を、これ見よがしにふるい、一芝居打つ。
「この度は、御愁傷様でございました。すみません、遅くなって…。」
帽子を取って挨拶をすれば、男たちは顔を見合わせた。
死人に口なし。私は死んだボスと生前親しかったふりをして、彼らの輪の中に入った。どこか遠いところから走ってきた女を邪険にはできなかったのか、慕った男の死後で感傷的になっているのか、マフィアにしては気のいい彼らは、私を快く輪に入れてくれた。ボスの架空の思い出を語りつつ、そう言えば、と、あたかも思い出したように本題を切り出す。
「次元大介…と言う男を知りませんか?」
「誰だそいつは?」
「お前知らないのか、東洋人の殺し屋だよ。この業界では厄介者だ。」
「殺しから足洗ったって話も聞いたけどな。」
「そう言えば昨日の葬儀、あそこのファミリーの護衛についてなかったか?」
そのファミリーの名は、まさしく今日私が依頼を受けたファミリー。ニアミスしてたのか…。彼らに丁寧にお礼を告げて、急いで帰らなければならないから、と、来た道を走った。
***