私を月に
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やけに大きな月が出ていた。まだ満月じゃないはずなんだが。
ホテルに向かう坂道を登りながら、かもめがハミングしている。今日のリクエストを反芻するように。
フライミー・トゥー・ザ・ムーン。私を月に連れて行って、か。こんな甘い声でねだられたら、どこへだって連れて行ってやりたくなる。
多分酒が残って要るのだろう。軽く鼻にかかったその無防備な声は、男を衝動に駆り立てるように甘い。
「…ちょっとベタ過ぎたかな?」
「いんや。今日みたいな夜にはぴったりだ。」
本当に眩しいくらいの月だった。眩しくて、こちらが真っ暗に見えるくらいだった。ふと振り返れば、悪党の影が二つ長く伸びていた。
私を月に連れていって
星たちの間で遊んでみたい
火星と木星に訪れる春を見てみたい
湧き上がる衝動をぐっとこらえて、その先の歌詞を手繰るように手を絡めた。さらにその先を組んだように、かもめは澄まし顔で目を閉じて顔を向けてくる。ああ、だいぶ酔ってるなコイツ。
ラム酒がほんのり香る砂糖菓子のような唇に、短くキスをした。
ホテルからは更に良く月が見えた。シャワーを浴びると、先に風呂を済ませたかもめが、濡れた髪もそのままに、部屋の電気もつけず、窓の外を眺めている。
「風邪引くぞ。」
「拭いて。」
普段はやはり背伸びをしているのか、時々子供のようにねだりごとをしてくる。
父親に甘えられない子供時代を送ったようなので、こいつの隙間がそういうものを呼ぶのかもしれない。まあ、ギリギリ娘でもおかしくない年齢だ。恋人としては正しくないのだろうが、そういう時は父親役に徹してやる。髪をタオルでわしわしと拭くと、気持ち良さそうに目を細めた。猫なんだか犬なんだか。
「狼男が出てきそう。」
低い声で唸って首元に顔を埋めてやると、くすぐったそうに笑った。頰に手を添えられる。くすくすと笑いながらキスをした。何度も、何度も。
***