私を月に
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今日は一日別行動だった。
次元は式典に際する要人の護衛。私はちょっと…言いにくいな。人にはカウンセリングで通しているけど、人によっては拷問に見えるらしい。口を割らない捕虜から秘密を聞き出すお仕事。暴力はしない。
主義じゃない以前に、暴力はせっかく開きかけた心も乱暴に固く閉ざしてしまう。
裏社会には様々な事情の人間が集う。手を染めざるを得なくて、そう生きてきた人間も多い。…ただの暴力的な人間もいるけど。だからむしろ、心の隙間はたくさんある。複雑で解きほぐすのは難解だが。
珈琲やハーブティ、お酒、時には軽めの薬を使って、緊張をほぐし、事実関係を押さえながら、被験者の心に入っていき、依頼の真実を突き止める。
報酬を受け取り、ホテルに戻ろうとすると、携帯端末が震えた。
「…次元?」
「おう。終わったか?」
「ちょうど今ね。次元ももう済んだの?」
「ああ、一杯やってるとこだ。来ないか?」
場所を聞いて、電車に乗った。電車なんか久しぶり。呼ばれたパブの扉を開く。まだ時間が深くないので、客はまばらだ。
ドレス姿のセクシーな女性と話している次元が目に入って、一瞬身が竦む。今日の私は、いつもの作業着にハンチング帽。隣の高い椅子に腰掛けて、バーテンに声をかける。
「モヒート。」
「お疲れさん。」
次元がこちらに向き直り、ニヤッと笑った。今更嫉妬なんてしないけど、それでもちょっとは心がざわつく。結局私って内弁慶ってやつなのかな。外に出て衆目に晒されると、彼に並び立つ自信がなくてちょっと息が苦しくなるよ。
女性は軽く手を振って席から離れた。
ミントが香るラム酒を一口。少しはさっぱりした気持ちになる。次元はまたバーボンを飲んでる。
「お前それだけは好きだな。」
「次元はいつもそれだね。」
飲めないけど、ラム酒は好き。香りが好きなのだ。先ほどの女性はこのパブの歌手みたいで、小さなステージに立ち、しっとりとジャズに合わせて歌い始めた。低くて柔らかい、素敵な声だ。なるほど次元の好みっぽい。
「何かリクエストした?」
「ああ、何がいいかって聞かれたんでな。」
この曲は知ってる。有名な曲だ。確か黒人の女性が歌ってた。自由の喜びと幸せを歌う歌。フィーリング・グッド。
「この曲好きだったの?」
「気分でな。…知ってたのか?」
「多少はね。」
次元の趣味が分かりたくて、勉強したのは内緒にしておく。
「お前も好きな曲があればやってもらえるぞ。チップが要るが。」
「そうね…。」
頬杖をついて考えてみる。勉強したとはいえ、そんなに沢山は知らない。曲が終わって、素直に拍手をした。目が合うと女性が微笑んで、こちらにやってきた。
「あなたの声、とても素敵。」
「まあ、ありがとう。」
チップをそっと手渡し、耳元でリクエストを告げた。
***
次元は式典に際する要人の護衛。私はちょっと…言いにくいな。人にはカウンセリングで通しているけど、人によっては拷問に見えるらしい。口を割らない捕虜から秘密を聞き出すお仕事。暴力はしない。
主義じゃない以前に、暴力はせっかく開きかけた心も乱暴に固く閉ざしてしまう。
裏社会には様々な事情の人間が集う。手を染めざるを得なくて、そう生きてきた人間も多い。…ただの暴力的な人間もいるけど。だからむしろ、心の隙間はたくさんある。複雑で解きほぐすのは難解だが。
珈琲やハーブティ、お酒、時には軽めの薬を使って、緊張をほぐし、事実関係を押さえながら、被験者の心に入っていき、依頼の真実を突き止める。
報酬を受け取り、ホテルに戻ろうとすると、携帯端末が震えた。
「…次元?」
「おう。終わったか?」
「ちょうど今ね。次元ももう済んだの?」
「ああ、一杯やってるとこだ。来ないか?」
場所を聞いて、電車に乗った。電車なんか久しぶり。呼ばれたパブの扉を開く。まだ時間が深くないので、客はまばらだ。
ドレス姿のセクシーな女性と話している次元が目に入って、一瞬身が竦む。今日の私は、いつもの作業着にハンチング帽。隣の高い椅子に腰掛けて、バーテンに声をかける。
「モヒート。」
「お疲れさん。」
次元がこちらに向き直り、ニヤッと笑った。今更嫉妬なんてしないけど、それでもちょっとは心がざわつく。結局私って内弁慶ってやつなのかな。外に出て衆目に晒されると、彼に並び立つ自信がなくてちょっと息が苦しくなるよ。
女性は軽く手を振って席から離れた。
ミントが香るラム酒を一口。少しはさっぱりした気持ちになる。次元はまたバーボンを飲んでる。
「お前それだけは好きだな。」
「次元はいつもそれだね。」
飲めないけど、ラム酒は好き。香りが好きなのだ。先ほどの女性はこのパブの歌手みたいで、小さなステージに立ち、しっとりとジャズに合わせて歌い始めた。低くて柔らかい、素敵な声だ。なるほど次元の好みっぽい。
「何かリクエストした?」
「ああ、何がいいかって聞かれたんでな。」
この曲は知ってる。有名な曲だ。確か黒人の女性が歌ってた。自由の喜びと幸せを歌う歌。フィーリング・グッド。
「この曲好きだったの?」
「気分でな。…知ってたのか?」
「多少はね。」
次元の趣味が分かりたくて、勉強したのは内緒にしておく。
「お前も好きな曲があればやってもらえるぞ。チップが要るが。」
「そうね…。」
頬杖をついて考えてみる。勉強したとはいえ、そんなに沢山は知らない。曲が終わって、素直に拍手をした。目が合うと女性が微笑んで、こちらにやってきた。
「あなたの声、とても素敵。」
「まあ、ありがとう。」
チップをそっと手渡し、耳元でリクエストを告げた。
***