パピヨン・ボヤージュ
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「今日をきっかけに禁煙すればよかったのに。」
「そんなんでやめられたら苦労しねぇよ。」
それでも、お前といると本数が減るんだぜ。口に出しては言ってやらないが。
報酬が手に入ったので、昨日のモーテルより少しいい部屋が取れた。と言っても、明日がわからない宿無し二人なので、贅沢はできないが。火薬と弾丸を補充したら、それだけで財布がペラペラになった。テレビのないホテルは、静寂が心地よかったが、なんとなく物寂しくて、ラジオをつける。
ひび割れた音のワルツだ。趣味じゃないが、今日のことを思い出す。
「随分上手だったじゃねぇか。」
「やめてよ。ワルツなんて初めて踊った。」
不思議なくらい女学生の制服が似合っていたかもめに、少しは父親のような気持ちにもなる。
アルバムを持たない人生に、捨ててきた過去が会いにきてくれたようで、俺は少し感慨深かった。花に包まれてたどたどしくステップを踏むかもめは、初々しくて、本当に少女のようだった。
態とらしく膝をついて誘ってみる。かもめは片眉を上げた。
「踊れるの?」
「基本だけな。紳士の嗜みってやつだ。」
顔がぐっと近づいて、かもめが困ったように頬を染めた。
「なんだよ?」
「…うるさい。」
ゆっくり足を運ぶと、心配そうに足元を見ようとする。
「足は見なくていい。俺に合わせて動け。」
「だけど、足踏んじゃうかも。」
「心配すんな。」
古い床が静かに音を立てる。初めはたどたどしく、自信なさげな靴音が、次第に規則的に響くようになってきた。
「あ…。」
「どうした?」
「いや…なんか、面白いね。…わかる。次元がどっちに行きたいか。」
試しに一歩大きく開くと、自分の体の一部のようにかもめの体がついてきた。面白くなって2、3足型を試す。ぐっと踏み込めば、かもめの足がピンと跳ねた。
一瞬の沈黙の後、顔を見合わせて、どうしようもなく笑った。二人の体が一つになったような奇妙な感覚と、こそばゆい幸せに。
***