パピヨン・ボヤージュ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ささっと撤退したかったのに、思わぬところで足止めを食らった。学院の中庭で、プロムナードが行われていたのだ。多分学祭の花で、女学院に閉じ込められた彼女たちには唯一のロマンスだろう、他校の男子学生とのダンスパーティ。制服で踊ったって格好つかないだろう…と思うが、十代の子供達だもの。熱に浮かされてキラキラフィルターがかかっているに違いない。
人混みをすり抜けようとするが、景観に馴染むための制服が仇になった。
「よかったら踊りませんか?」
ああ、ごめんね、私が女生徒だったら恋の始まりだったかもしれないんだけど。私、泥棒なんだよね。随分育ちの良さそうな青い目の青年が丁寧に腰を折った。その澄んだ瞳は節穴なのか。
「私、踊りは得意じゃないの。」
「エスコートしますから。」
断る間も無く手を引かれてしまった。強引。
ピアノの旋律に導かれて、ゆっくりとしたテンポのワルツ。
「とてもお上手ですよ。」
「あなたのエスコートがね。」
この純朴な青年は、皮肉を皮肉とも受け取ってくれない。こちらが恥ずかしくなるほどニッコリと微笑んだ。
「ワルツはお嫌いですか?」
「ええ…でもこの曲は綺麗ね。」
「パピヨン…という曲ですよ。」
パピヨン…蝶々か。
「この後、時間はありますか?」
「ごめんなさい、この後は予定があるのよ。」
「随分つれないなぁ。せっかく会えたのに。」
「ええ。残念ね。」
曲が途切れるタイミングで身をかわした。次元が車を回し、ドアを開けて待ってくれている。座席にさっと乗り込む。空気をつんざくような口笛に振り返れば、さっきの青年が一本の薔薇を放った。
ブゥン…音を立てて車が出る。
一輪の薔薇…一目惚れって意味だっけ。
「ほぉ、随分キザな贈り物じゃねえか。」
私の執事はニヤニヤと、早速タバコをスパスパしている。ニコ中め。窓を開けて花びらを散らした。バイバイ、少年。
***