パピヨン・ボヤージュ
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疲れていた割に早くに目がさめた。ブラインドから漏れる光が頰に差し込んでいた。彼の胸板に頬を寄せたまま、鼓動に耳をすませていた。
静かな朝だった。胸板の毛がちょっとだけ頰に痛くて、それさえも愛おしくて、幸せな気持ちに目を細めた。光に照らされた埃のつぶがキラキラ光っていた。昨日、色んなものを失なったばかりだと言うのに、私も呑気なもんだ。彼を起こさないようにそっと身を起こした。
いつも帽子の下に隠れている彼の顔をとっくりと見る。大好きな顔。
少し外の空気が吸いたくて、そっと外套を羽織った。
外はまだ夜の気配が残っていた。薄くなった月がしぶとく空に残っている。空気が新しい気がして、肺いっぱいに吸い込んでみる。きっと今日の朝のことは忘れられない。
少し歩くと、モーテルの崖側はすっかりと朝日を浴びて温まっていた。朝露の乾いた草地を蝶が踊っている。天国ってこんな景色なんじゃないかな。黄色い朝日に、空色の蝶。
よく知る革靴の足音が聞こえて来た。振り返る、やっぱり。
「散歩に行くなら誘えよな。」
欠伸混じりに悪態を突かれる。
「よく眠ってるみたいだったから。」
「こりゃいい景色だな。」
「思いがけずにね。」
蝶がふらふらと、何かを間違えたのか、次元の肩口に止まった。
「アサギマダラ。こんな所に。」
「日本の蝶か?」
「そうだけど、半分違うの。海を渡って、旅をする蝶。」
ほぉん、と感心したように息をついた。
「食われたりしねぇのか?」
「体に毒があるからね。…食べなきゃ大丈夫。」
毒、と言う単語に若干顔を強張らせた次元に補足をしてあげる。
旅をする蝶は、ふわり、肩口から飛び去った。
「さて、これからどこに行こうか?」
***