そして出逢いは交差して
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早速ルパンが次の予告状を出した。
彼を殺せるとは到底思えないが、一応対策として彼の過去データを洗い出していたら結構夢中になってしまった。お姫様をさらったり、なんか脱獄したり、どっかの秘宝を盗み出したり。すごく自由で、羨ましかった。絶対建物に巻き込まれて間抜けに死ぬなんてないよな。
そして、彼の記録に切っても切り離せない、次元大介という男が気になった。一介のガンマン。
爆弾を準備するために武器庫に向かう途中で、拷問部屋から声がした。気になって部屋の前に立つ警備役の隊員に声をかけると、ルパン三世の一味である次元大介を拷問中であるという。私はなんだか物語の登場人物がそこにいるような、狐につままれたような不思議な気分になって、思わずその扉を開いた。警備役にはルパンが犯行予告を出したので、拷問の必要はないと伝えて。
「ルパン三世は何処にいる?!」
「しらねぇな。あいつと俺はビジネスパートナーで、仲間じゃねぇ。今どこで何してるかなんて、俺には知ったことじゃねぇ。」
拷問担当官のヒステリックな声と対比的に、静かに答える掠れた声。ふぅん、中々セクシーじゃないか。顔を見てやろうと思って、様子を伺う。
見覚えのある顔で驚いた。
あの日、カフェテラスにいた男の1人だ。…ってことはあのときニヤニヤしてきた派手なスーツの男はルパン三世ってこと?
やれやれ、ルパン三世。なんか色々知ってるな?!
ともあれ、へぇ、あれが次元大介。ルパン三世の相方で、早撃ちの名手。随分とボロボロな様子から、拷問が始まってから2、3時間は経っていると見える。
彼から回収したであろう物品を眺める。早撃ちには向かなそうなごっついマグナム、弾丸、くしゃくしゃに潰れたペルメルの箱、濡れたように光る銀色のジッポ、そして彼のトレードマークだという、帽子。
私はタバコは吸わない。でも、ちょっとしたいたずらを思いついて、くしゃくしゃになったペルメルからシケモクに火をつけた。ジッポの冴えた音に二人とも身を硬くする。ちょっと面白い。
「誰だ?!」
「私だよ。ちょっと遊びに来ただけ。」
顔が見えないように帽子をしっかり被り直して、ゆっくりと二人に近づいていく。次元大介の視線が、明らかにタバコを挟んだ私の指先に集中していることを感じてゾクゾクする。わざとらしく煙を深く吸い込んで、次元大介の顔にふっ…と吹きかける。さっきよりも随分と余裕の無さそうな表情に、私の肌は粟立った。
こんな状況なのに、彼はタバコを吸いたがっている!
拷問官に向き直り、なるべく平滑に事実を伝える。
「拷問の必要はなくなりました。ルパン三世がモルマント財閥の私営美術館に犯行予告を出したので。彼は約束を守る男でしょ?」
拷問官はチッと舌打ちをして、握りしめていた拷問用の鞭を放り投げた。あんなもん使ってたのか。乗馬用の鞭だぞ。
「どーすれば?」
ボロボロの彼をタバコでちょいちょいと指して小首を傾げれば、彼は更に苛立った様子で、「お前の好きにしろ!」と吐き捨て、部屋の鉄扉を乱暴に閉めていった。ゴゥンと音が響き、暫しの静寂。二人きり。
次元大介ーーという男は、ギリギリとこちらを睨みつけている。いい男だな。捕まっちゃって、かわいそうに。ふぅ…と再び煙を吹きかける。露骨に嫌そうな顔に、思わず笑みがこぼれてしまう。
「…ごめんなさい、ルパン三世が死ぬまでは、あなたにはここに居てもらわないと。」
そしたら出してあげる。と言うと、次元大介は片眉を上げた。帽子の下は存外表情が豊かなのか。
「奴がお前らに何をしたってんだ?」
「私は末端だから何も知らない。あの人の逆鱗ってやつに触れたんじゃない?」
「あの人…」
次元大介の傍の壁にもたれる。あの人はルパン三世に何を盗まれたというのだろう。タバコを挟んだ右手に何かが触れてぎょっとすると、彼が器用に口だけを使って、私の指の間からタバコを奪い去ったところだった。満足げに深く吸い込む。
「あ~…。生き返るぜ。」
「泥棒。」
「バカ言え、元々俺んだ。」
「そうだった。」
口に残った煙の味を、おいしくないなと噛み締めながら、あ、これ間接キスじゃん。とちょっとバカなことを考えてしまう。にっがい間接キスだな!
拷問部屋なのに、なんだか居心地が良くてそっとしゃがみこむ。
死ぬなら、この煙ったい匂いのそばがいい。
「なんでこんな所に居るんだ?」
いつもは帽子の下に隠れているであろう鋭い視線が、私を捉えて離さなかった。なんで?…そんなの、逃げられないからに決まってるじゃん。
無意識に自分の首元に手を伸ばす。
言ってしまおうか?
口を開きかけた瞬間、無線が入った。
『ネズミ、至急中央司令室に来い。』
あの人の声だ。逆らえない、あの人の。
「うい~。」
なるべく能天気に返事をする。
『あまりおもちゃに夢中になるなよ。』
やっぱり盗聴されてたか~と肩をすくめる。やれやれ。鉄の扉に錠をかけながら、鉄格子越しに口パクで次元大介に伝える。
(ま、た、あ、と、で、ね)
***