そして出逢いは交差して
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
悪い予感は的中。自分の予感は信じたほうがいい。拷問や監禁には慣れてるーー訳ではないが。今更動揺することでもない。ただなあ、面倒なことになっちまった。殺す気がないのは目に見えている。ただルパンと手を組まれたら困るのでここにいろ、という感じだ。それだったらこんな薄暗いジメジメした場所じゃなくて、ホテルのスイートルームだっていいじゃねぇか。帽子にタバコにライター財布、大事な女房ーーマグナムまで押収されちまった。手錠が手首にきつく食い込んでいる。タバコが吸いたい。拷問官はヒステリックにがなりたてるだけで芸がねぇ。さっきから何度も同じ質問だ。
「ルパンはどこだ!仲間なら知っているだろう!」
「だから、仲間じゃねぇ。居場所はしらねぇ。」
そんな口説き方じゃ女も振り向かねぇぞ、と言ってやりたくなるが、脅しに派手な音を立てる鞭に言葉を飲み込む。あんなもんで引っ叩かれたらミミズ腫れまみれになっちまう。何度か水をぶっかけられたり蹴られたり殴られたりしたが、どうにも容量を得ない。退屈だ。退屈だ。退屈だ。退屈だとどうにもタバコが吸いたくなる。
ふと、カチン、と鋭い、聞き慣れた音がした。
ペルメルのほろ苦い香りが漂ってきて、思わず身震いする。
「誰だ?!」
拷問官ががなり立てた。いや、十中八九お前の仲間だろ、何をビビっているんだ。
「私だよ。ちょっと遊びに来ただけ。」
少しだけ掠れた、中性的な声がする。柔らかい少年のような、はたまた凛々しい女のような。
帽子を目深に被り、ぶかぶかしたつなぎに身を包んだ、少年のような女のようなそいつは、タバコを燻らせ、猫が歩くように滑らかに足音も立てず、こちらに歩いてきた。ああタバコ。俺のペルメル。
顔にふっ…と煙をかけられる。吐息の中にわずかな甘さを感じて、こいつは女だと確信する。こっちの方がよっぽど拷問が上手そうだ。拷問官に向き直って、女は続けた。
「拷問の必要はなくなりました。ルパン三世がモルマント財閥の私営美術館に犯行予告を出したので。彼は約束を守る男でしょ?」
拷問官は舌打ちをして、鞭を放り投げた。帽子の女はしげしげと鞭を眺めた後で、「どーすれば?」と火のついたタバコで俺を指した。「お前の好きにしろ!」と怒鳴りながら、拷問官は出て言った。
女は俺の前にしゃがみ込んだ。帽子のせいで顔ははっきりと見えないが、その目が新しいおもちゃを見つけた子供のように爛々としていることがわかる。ふぅ…と再び煙を浴びさせられる。吸いたいタバコ、妙にくすぐる女の香りに、俺は顔をしかめた。その反応を楽しむように、女はコロコロと喉の奥で笑った。猫みたいな女だ。
「…ごめんなさい、ルパン三世が死ぬまでは、あなたにはここに居てもらわないと。」
それがあの人の命令だから。ことが済んだらきっと出してあげる。と女は続けた。ルパン、お前次は一体何を盗んだってんだ?
「奴がお前らに何をしたってんだ?」
さあ、と女が肩をすくめる。
「私は末端だから何も知らない。あの人の逆鱗ってやつに触れたんじゃない?」
「あの人…」
イヴァンのことか。女は壁にもたれかかり、何か考え事を始めたようだった。妙に気が抜けていて、こちらをまるで警戒していない。今初めて会ったはずなのに、この女、どこかで見たような気がする。細い指にゆるく挟まれたタバコに、力任せに食らいつくと、あっさりタバコは女の手から抜けた。深く吸い込んで、肺いっぱいに煙を入れる。
「あ~…。生き返るぜ。」
「泥棒。」
「バカ言え、元々俺んだ。」
「そうだった。」
隣に女が腰を下ろした。体の小さな女だ。この場には場違いな。所作の端々に幼さは滲むものの、年頃の女だろうと察する。奇妙に落ち着いた女の態度は、なんでも答えてくれそうに見えて、つい下世話に質問をする。
「なんでこんな所に居るんだ?」
女の瞳が大きく揺れた。帽子に隠れたその顔は、昼の明るい光の下では、案外美しいのかもしれない。こんな暗がりでは、瞳の表情くらいしかわからない。突然女が片耳を抑えた。どうやら無線でもつけているらしい。慌てて立ち上がり、なにやら話している。拷問部屋の出口ーー少しライトが明るいところまで行くと、彼女は振り返って、一語一護大げさに口を動かした。
ま、た、あ、と、で、ね、 か?
***