物語は突然に
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拠点に戻ると、やけにバタバタと騒がしかった。
「…何の騒ぎなの?」
平隊員を捕まえて話を聞くと、爆破後の建築物から回収する物品が何者かに盗まれたらしく、「あの人」がおかんむりなのだそうだ。回収業務は私の管轄外だ。静かに嵐が去るのを待つしかない…と思っていたら、「あの人」から呼び出された。耳元の端末から聞こえる声はやけに優しい。
「あの人」はいつもそうだ。ひどいことをするときは、誰よりも優しく声をかける。
赤いベルベッドで布張りされ、淵を金で装飾された重厚な扉。その扉の前で膝をつく。中に入ることは許されない。私のような「薄汚い子供」には。もっとも、今は「薄汚い子供」ではなく「薄汚い、大人になり損ねた人間」の方が相応しいが。
「おかえり、私の可愛い子ネズミちゃん。今日も美しい破壊だったね。」
「ありがとうございます、ご主人様。」
私を採掘場から連れ出した人。
私の首にブサイクな首輪をつけた人。
イヴァン・ペルヴェム。
この埃っぽい火薬だらけの不自由な場所から、やっと抜け出せるのだと思った。努力は報われるのだと思った。初めて私を認めてくれた人だ、と思った。昔は。
「実は困ったことがあって、また君に助けて欲しいんだ。」
彼はいやらしく指につけた無骨な指輪をなぞった。
「私に出来ることなら。」
断る選択肢はない。
私の命と、故郷は、この人の手のひらに握られている。
「ルパン三世、を、知っているかね?」
「…名前だけなら。」
突飛もない話題に思わず顔を上げると、思い切り頭を踏まれた。下が柔らかい絨毯なのでさほど痛くはないが、重い。慣れていることだ。毛足の長いこの絨毯は、口に入って嫌なんだよな。
「奴を殺せ。」
「…お言葉ですが、ご主人様、私に出来るのは建物の破壊だけです。」
「物分かりの悪い汚いネズミめ!建物に巻き込んで殺してしまえと言っているんだ!」
ルパン三世、ともあろうものが、建物の爆発に巻き込まれてくれるだろうか。きっとスルッとすり抜けて、生き延びちゃうんじゃないのか。それでも首を縦に振らないと、頭蓋骨が砕けちゃうよなぁ、なんて、他人事のように思って返事をした。
「仰せのままに、ご主人様。」
***