エピローグ
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紫色の葉が所々赤く色づく、奇妙な広葉樹林だった。もっともこの森は年中めまぐるしく色が変わる。夏に入った時はエメラルドグリーンだったな、と思い出す。呆れるほど美しいが、一度入ったら出られない、出れたとしても我を失うと言われる鎮守の森。足元を覆う苔さえも当たり前の色はしていない。オレンジ・サーモンピンク・バーガンディ。
ほんの少し木々を揺らせば、黄色い蝶がワサワサと音を立てて飛ぶ。瑠璃色に輝く蝶が、のたれ死んで腐った獣の体液を吸っている。
情欲を持て余した熱帯夜に見る夢のような、クスリにアタって見る幻覚のような森。
「本当にこんな山奥に住んでるのか?あの小さなかもめちゃんは。」
「お前が言うほど小さかねぇよ。現にこのデカイお山の大将さ。」
「俺らも迷ったら出られねぇだろうなぁ。」
「違えねぇ。」
痺れを切らしたようにルパンが声を上げる。
「かもめ〜〜ちゃん、あっそびましょ〜〜!」
あたり一面の蝶が飛び去った。
「ごきげんよう。お茶でも飲んで行く?」
後ろから聞き慣れた、随分聞いていなかった、ずっと聞きたかった、鈴のような声が聞こえる。赤紫に色づく木の幹にもたれるように首を傾げて、かもめが立っていた。
「茶は帰って来てからにしようぜ。デカイ仕事が待ってんだ。」
目があうだけで、腹の底が、寒い日にキツイ酒でも飲んだ時のようにジワリと暖かくなる。変わらない深く被ったハンチング帽とダボダボのつなぎ。もっともその下の体は出会った時よりも健やかで柔らかいのだが、それはまあ、俺以外の男が知る由もない。
「かもめちゃん。ひっさしぶりだねぇ。」
「久しぶり、ルパン。」
自然に軽く抱擁を交わす二人。
こっちに車を止めてんだ、と先導するルパンの後ろを、並んで歩く。懐かしい歩幅。
「またそんなつなぎ着てるのか。」
「仕事の時はこれが一番。…安心してよ、中にはかわいいの着てるから。」
つなぎの胸元を軽く引っ張って下着を覗かせた。
「どこでそんなの覚えて来やがった、んのエロガキ。」
ファスナーと片眉を上げつつかもめは答える。
「大介の気が引きたくて勉強したのに?」
「生意気。」
「好きでしょ。嫌い?」
「クソガキ。」
叩き合う軽口が心地よい。後で覚悟しとけよ、とでこっぱちを突いてやる。変わらない子供のような笑顔で、かもめは額をさすった。
「あんれ、次元ちゃんそっちに座るのけ?」
今日の車はルパンのベンツSL。
後部座席に座ると、すかさずルパンが突っ込んで来た。
「道中五ヱ門も拾うだろ。」
「あら、あらあらら。いやいや別にいいですけどね?…かもめちゃん前に来る?」
「私後ろが好きなの。」
「あんら、それ、聞き方によってはエッチに聞こえる。」
「…ルパン、お尻にコルト突っ込んであげよっか?」
「いやん、勘弁して。…なーんかしばらく会わないうちに大人っぽくなっちゃって…お?かもめちゃん、首に随分キレーなのつけてんじゃねぇの。上物のアイオライトか?多色性の随分強い…。」
指で石を弄びながらかもめは答える。
「似合うでしょ?」
「あぁ、そりゃもう。…誰かからのプレゼントかな?」
「さぁ、誰からだったかな。」
かもめはいたずらっぽくこちらに目配せをしてくる。バックミラー越しにニヤニヤと見つめてくるルパンが鬱陶しい。タバコを深く吸って、煙と吐き出すように言った。
「一体誰だ、そんなセンスのいい贈り物。俺の知ってるやつか?」
空いている方の手で指で喉元をくすぐってやると、かもめは猫のようにコロコロと笑った。
「さ〜て、ほいじゃあ、一仕事行きますか〜!!」
タイヤがキュルキュルと子気味の良い音を立てる。オープンカーを撫でる心地よい風に、飛ばされないように帽子を抑えた。
Fin
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