緋色の終焉
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状況が全く飲み込めない。
床に黒々とした血だまりが広がり、次の瞬間、ルィティモ・プァーヴァルは、燃え上がった。
駆け寄るかもめに助け起こされる。
「…ッ痛て、これは、一体、どういうことなんだ?」
「ごめん、これ返すね。」
羽織っていたシャツをためらいなく引きちぎり、肩の傷に応急処置を施しながら、かもめは事の顛末を説明する。
「最後の歯車、13枚目のプァーヴァルのメダルは、裏表があったんだ。表に嵌めれば、文字通り世界を火の海にする化学兵器に。裏に嵌めれば、手の込んだ自殺用アイアンメイデンに。」
「おいおい、じゃ、もし逆だったら。」
「人生とはギャンブルだよね〜。」
かもめはクスッと笑ってルパンとね〜っと顔を見合わせる。全く、こいつらにはついていけない。どっかがぶっ壊れてやがる。
「最後のメダルを見て初めて分かったんだよ。ずっと兵器にしては役に立たない構造があることが謎で。…説明してあげたかったけど、そんな暇なかったじゃない?」
後ろからゆっくりと歩いてきたルパンが続ける。
「俺らが持ってた12枚のメダルのうち、6枚は白。6枚は赤。白は兵器として起動するため、赤は自殺するために必要だった。」
「まぁ、あの男は赤色が好きだからね。十中八九赤に入れると思ったよ。…最終的には掛けだけど。」
「じゃあ最後のあれは…芝居か?」
ニヤーっと笑う二人。こうして見たら似たところがある。
二人とも、俺の相棒として。
「…お前女優になった方がいいよ。」
「人を騙したかったらね、正直でいることよ。本気の中に少しだけ嘘を混ぜるの。隠し味みたいにね。」
不意に、果てしなく高く見えていた白い天井に亀裂が走り、透き通るように青い空が広がった。こんな芸当できる男は一人しかいない。
「五ヱ門か?」
「もっと早く着く予定だったんだがな〜。」
ぽっかりと空いた空に、小型のヘリが一台。
首を傾げて見つめるかもめに、ルパンが説明する。
「安心しな。俺が呼んだ。」
「ルパン、お友達が随分たくさんいるのね。」
「すぐにかもめちゃんもお友達になれるさ…お〜い、五ヱ門。遅かったじゃねぇか。」
「すまぬ、例のものを回収するのに手間取った…急げ、銭形が来ている。」
ルパンが声をかけると、ヘリから梯子が下された。半分も登らないうちに派手なサイレンが聞こえてくる。梯子にぶら下がったまま、離陸する。振り返れば、美しい兵器---だったものから溢れる煙が、空にもうもうと登っている。瓦礫の中にトレンチコートの小さな人影が見えて、相変わらずの仕事っぷりにため息が出る。
「仕事熱心なこったな。」
「こっからはとっつぁんにお任せ。」
「とっつぁん。あの、ICPOの?」
「ああ見えて仕事の出来る男なんだぜ、とっつぁんは。正義のことは正義に任せて、俺ら薄汚れた泥棒は立ち去るとしよう。」
潮風が体を撫でた。一仕事終えた充実感が、この場にいる全員を同じように包んでいるのがわかる。
「ルィティモ・プァーヴァル…自殺用のアイアンメイデン…手の込んだ美しい棺だったとはな。」
呟けば、あぁ、とルパンが返事をする。
「エルヴィンはもちろん世界を滅亡させる兵器なんて作りたくなかった。イタリア市民もプァーヴァル族も、彼には変わりなく大切な人間だった。ただ技術を持っていたばかりに…。どっかの誰かさんみたいにな。」
かもめは遠い目をした。柔らかい髪が風に遊ばれている。
「…わかるよ、操り人形にされた人間が、最後の瞬間くらい、自分で選びたくなる気持ち。最後くらい、美しいものに包まれていたいと思うこと。」
子供のようで、大人のようなその女は、視線に気付いて、いたずらっぽく笑った。
揺れる梯子を疾駆八苦しながらも、ヘリに乗り込む。
「初めまして、私はかもめ。えっと、五ヱ門、さん?」
「五ヱ門で構わぬ…拙者は石川五ヱ門…以後宜しく。」
よろしく。と自然に握手を交わすが、五ヱ門はその手の小ささに驚いているようだった。
「こんな小さな乙女が…。」
「そんで、見つかったのか?」
「ああ…随分手間取ったぞ。あのあたりの民衆は、誰も話をしてくれなくて…。」
「何の話してるの?」
「ま、楽しみにしてなよ。今に分かるさ。さて、ここからはちょっ〜と長いぜ。休んでな。」
***