終わりのはじまり
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本と向き合い、必要そうな部分は記録を残しつつ、暗号と思われる部分はルパンに回す。傍らでは次元が愛銃を手入れ。静かで、研ぎ澄まされた集中に不思議と充実感を感じる。追い込まれているのに、心地よくて、ずっとこの空間にいたい、と思う。気になる記載を見つけて、ルパンに声をかける。
「ルパン、これってまるで…。」
ルパンと顔を見合わせると、集中と静寂を乱す、小さなノックの音がした。
懐のコルトディフェンダーに手を掛けると、ルパンに窘められた。
「俺のお客さんだ。」
ドアを開くと、バラの香りに包まれた妖艶な女性が立っていた。
「ハァイ、ルパン。久しぶりね。」
次元が盛大にため息をついた。
「ややこしくなるから呼ぶなっつったのに。」
「…クルチザンヌ?」
「かもめちゃん、ここはフランスじゃなくってよ。こちら俺の昔馴染みの峰不二子。ルィティモ・プァーヴァルの所在地の調査をご依頼しました。」
「初めまして、かもめちゃん?」
「初めまして、峰不二子さん。…とっても綺麗ね。」
思わず素直に間抜けな挨拶をすると、峰不二子という女性は美しく笑った。
「あら、可愛い。不二子ちゃんって呼んでもいいのよ。素直な女の子は大好き。」
思いがけない美女の登場に、今まで過集中していたことも合間って、あっけにとられてしまった。口が空いてる、と、次元にクッキーを突っ込まれる。ホテルに備え付けてあったお茶菓子だ。疲れた脳に糖分が染みる。もしゃもしゃと食べながら、だってあんまり綺麗だから、と答えると、綺麗なだけの女なら良かったんだがな、と、砂糖のついた指を舐めながら呆れ顔を見せた。いわゆるファムファタールってやつなのかな。
「さて、早速だけど本題ね。ルィティモ・プァーヴァルは、あんたたちのすぐ側にあるわ。」
不二子さんは綺麗に手入れされた爪で、天井を指差した。
「あんたたちの真上に、ね。」
「真上…。」
三人で天井を見上げる。
このホテルの最上階はヘリの停泊所がある。国内外有数のセレブの旅客機を格納するそれは、大きな倉庫になっているはずで、なるほどルィティモ・プァーヴァルを格納するには充分すぎる広さだ。
本拠地に格納する、それは当たり前のことのようでいて、どこかに違和感を感じる。なんだろう、この言いようのない違和感。
不意に口の中が再び甘くなった。また口が空いてる、と、次元にクッキーを突っ込まれたのだ。もしゃもしゃ。なんか集中しすぎて逆に頭が働いてない。疲れてるのかな。美味しいな、これ。あーんと口を開けると、またクッキーが入って来た。次元がククッと、笑った。
「なんつーか、こういう貯金箱のおもちゃあるよな。」
証拠になりうる書類をローテーブルに放って、不二子さんは冷たく言い放った。
「約束よ、ルパン。報酬を。」
「不二子ちゃんったら、冷たいねぇ。ちょっとはゆっくりしていきなよぉ、お茶でも入れるからさぁ〜。」
「調べながら何だか嫌な感じがしたの、正直早く手を引きたくて来たのよ。関わりたくないわ。」
はいはい、と言って、ルパンは懐から指輪入れのような布張りの小箱を取り出した。不二子さんが受け取ろうとすると、ルパンはスイッと身を泳がせる。
「ちょっと。」
「だってあの二人ずっとああして遊んでるんだもんよぉ〜。俺様寂しい〜。」
「いいじゃない、お似合いだわ。」
きっと軽口で言っただけなんだろうけど、『お似合い』という単語に頭を小突かれて、次元の指に軽く歯を当ててしまった。単語に小突かれたのは次元も同じようで、クッキーを構えた手のまま、怒ったようなびっくりしたような顔で不二子さんを見いている。
不二子さんはルパンの小言は歯牙にもかけず、小箱の中身ーー眩しいくらい光り輝く宝石ーーを確認して、颯爽とドアの前に立った。
「じゃあね、ルパン。また生きて会えたら、会いましょう。」
立ち去った後も、不二子さんの「いい女」をそのまま表現したような香りは居座って、ちっとも女らしくない私の胸を少しだけ傷ませた。
***