憂鬱な首輪
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
女の子がみんなお姫様になれるわけじゃない。
第一、お姫様なんてつまんない生き物だよ。綺麗で、可愛くて、優しいだけで。
王子様なんてあてにならない、バカみたいな白タイツ履いたヤワな男を待ってなきゃいけないんだから、同情する。
私はお姫様じゃない。
ただのネズミ。
爆弾背負ったドブネズミ。
お姫様になりたかった訳じゃない。
だけどさ、一度くらい、
普通の女の子みたいに、
恋とか、してみたかったよ。
キイイ… バチッバチッ
耳触りな金属音で目がさめた。
自分の体じゃないみたいに重たい体。鉛でできているみたい。
瞬きを何度かしてみるけど、焦点が合わなくて、ぼんやりと色が見えるだけだ。
体を起こそうともがいたつもりで、言うことを聞かない体は、わずかに頭を揺らしただけだった。
声を出したいけど、喉がからからで掠れた音しか出ない。
「お?お姫様が目を覚ましたぜ。」
だから、お姫様じゃないってば。
お姫様じゃないから、かぼちゃの馬車じゃなくて、自分の足で逃げて来たの。
「ルパン、そこ退け。」
目はまだぼんやりとしか見えない。でもこの声、この香り、知っている。
壊れ物でも扱うように優しく背中に手を回され、上体を起こされる。口元に冷えたガラスのコップが押し当てられた。水だ。
美味しい。
体は呆れるほど欲しているのに、もどかしいほど本当に少しずつしか飲めなくて、それでもガラスのコップは慎重に、根気よく傾いてくれた。最後の一口が溢れてしまって頰を伝うと、無骨な指がそれを拭ってくれたのを感じた。
煙の匂いが染み付いた背広の胸元が暖かい。心臓がどくどくと脈打っているのを感じる。この鼓動は私の?あなたの?
「俺がわかるか?かもめ?」
見えない男が囁いた。声の出し方を忘れてしまった喉で答える。なんとか声らしいものが出て安心する。
「次元…?」
少しずつ視界がクリアになっていく。ここはどこだろう?
「あぁ…俺だよ。全く無茶しやがって…。」
今、あのヒゲの男の胸元に抱かれているんだなぁ、と、場違いに踊る心と裏腹に、意識を失う直前の記憶が少しずつ蘇る。はっきりと、肩を抱く傷だらけの手が見える。
「…なんで…助けたの…」
「何でってそりゃ…オメーみたいにいい女をみすみす死なせる訳に行かねえだろ?」
帽子の下からちろりと鋭い目が覗き、口の端がぐにゃりと曲がった。
***