そして出逢いは交差して
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不快感を洗い流そうとシャワーを浴びた。洗っても洗っても触れられた感触が消えない。絶望的な気分だ。お仕置き。考えたくもない。
つなぎに着替えてから拷問部屋に急いだ。懐にはサプリメント諸々、化膿止めの薬、水、軍隊の携帯食。
ルパンにもらったミュートの機械を首輪に固定できるように軽く改造した。かちゃりとはめて、帽子をきゅ、と被りなおし、拷問室の扉を開いた。こっそりくすねた鍵で手錠を開ける。
「逃げてもいい、でも今逃げられたら、助けられない。逃げれるチャンスがあったら、必ずあなたを逃すから、だから、少しだけ我慢してここにいて。」
次元大介は少し呆けたようにこちらを見ながら手首を擦っていたが、了承した、とでも言うように、差し出した水をぐびぐびと飲み出した。水を飲み込むたびに上下する喉仏をうっとりと眺めてしまう。いい男なのだ。はじめはきちんとセットしてあっただろう髪は乱れて、長い前髪が顔に垂れている。
「随分俺に構うじゃねぇか。」
「こんな素敵なおもちゃ、ほっとけないわ。」
「おもちゃねぇ。」
軍隊の携帯食とサプリメントを手渡す。
「あの後も殴られたりした?」
「いや、あれからここにきたのはお前が初めてだ。…監視されてるんじゃないのか?」
「監視室の映像は数時間前の映像をループさせてる。私についてる盗聴器はただいまミュート中。」
盗聴器?と眉間に皺を寄せる次元大介に、襟元を引っ張って首輪を見せる。
「不細工なネックレスだな。」
次元大介は顔をしかめたまま携帯食を齧り、そのもたつく食感と味に一層顔をしかめた。
「随分な味だな。」
「それ一本で一週間分の栄養素になるらしいよ、知らないけど。」
空いている方の彼の手を取って、きつく残る手錠の後に化膿止めを塗る。ゴツゴツとした大きな手。ふと、体を這い回ったあの人の手の感触が蘇り、不快さにクラクラする。
「大丈夫か?」
「?…傷は大したことないよ。今化膿止めを塗ったから、2・3日もすれば綺麗に治ると思う。」
「そうじゃなくて、お前が。…ひでぇ顔だ。」
「…ひどい顔は、生まれつき。」
顔を見られたくなくて、帽子を深く被り直す。もう一方の手にも薬を塗りながら、話を続けた。
「さて、本題。ルパン三世に会ったよ。彼は、あの人の企みを止めるために動いている。」
プァーヴァルのメダルって知ってる?と問うと、彼は表情を硬くした。伝説だと思っていた、と彼は言った。
プァーヴァル、それはもともとイタリアの一部に住んでいた民族で、現代科学にも匹敵する科学技術を持っていた。その技術の高さに人々は恐れをなし、悪魔の手先だと言って彼らを迫害した。
技術は持ちながらも少数民族であった彼らは、その理不尽な迫害に対抗するため、とある兵器を開発した。
「ルィティモ・プァーヴァル」
伝説では、一週間で世界を火の海にできる代物だとされている。
その兵器を用いて、国もろとも滅ぼそうとしていた矢先に、それまで沈黙していた休火山が灰を振りまいた。プァーヴァル人の半分は、その肺に体を蝕まれて死に絶え、生き残った半分は、彼らを迫害した民衆と、とある時計塔に逃げていた。
危機的状況で初めて、民衆は自らの誤解を知った。民衆は彼らと和解し、ルィティモ・プァーヴァルはイタリアのどこか地底深くに隠され、ルィティモ・プァーヴァルを起動するために必要な13の歯車ーープァーヴァル人の歯車はつるりとしていて、まるでメダルのようだったことから、プァーヴァルのメダル、と呼ばれたーーそれは、教会などの建築物の中に隠された。
今まで私が破壊してきた建築物の中で、宗教関連の建物は10棟。ルパンに横取りされた1枚を考えると、あの人の手元にあるメダルは9枚。今日ルパンが持って行ったメダルが1枚、ルパンの手元にあるメダルは、合計2枚。まだ見つかっていないメダルは、あと2枚。
一息ついて、それぞれに思いを巡らし、沈黙した。
「…そんで、お前さんはルパンに頼まれて俺を手助けに来たのか?」
思いもよらない質問にきょとんとしてしまう。
「ルパンにあなたが捕まってるって、伝えるの、忘れてたわ。」
「あ?…じゃあルパンは俺が捕まってるってのは…。」
「知らないんじゃない?今度伝えておきましょうか?」
次元大介は、はあ…と深くため息をついた。
「お前、変な奴だな。」
「こんな場所にいたら誰でも変になるわよ。」
「そうじゃなくて。…じゃ、お前は自分の意思で俺の面倒を見に来たってのか?」
「言ったでしょ、こんな素敵なおもちゃほっとけないって。」
「…ルパンは他に何か言ったか?」
「私に、生きろと。」
「なぁ、お前さんは一体何者なんだ?」
「ただの女の子だよ、首に輪っかがついてる。」
なんとなく、知られたくなかった。私が爆弾ネズミだって。いずれ彼は知ることになるのだろうけど。ふわあ、とあくびが出た。少しも休みなく動いている。いい加減に疲れてしまった。きっとあの人は今夜は帰ってこない。夜は接待、明日は重要な会議。「お仕置き」は、明日の夜かな…。ほんの少しだけ目を瞑っていよう…そう思ったら、あっという間に意識が溶けてしまった。
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