風邪と夕陽の逃避行
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珍しく、彼が風邪をひいた。
うんと酷いやつ。そういえばつい先日かつてないほど人混みに揉まれるような案件があって、その後雨に濡れて帰ってきて、まぁ、風邪をひいてもおかしくない条件は揃い踏みだった。
こんな暮らしだから、救護の基本的なことは覚えたけれど、流石に薬の処方までは自信がなくて、正規のルートじゃないお医者を呼んだ。腕は確かだって話だったけど、心配になるほどのおじいちゃん医者だった。笑うと前歯がなかった。
お医者さんは、いくつかの薬を処方した。次元はなにも言わなかったけど、彼は粉薬が苦手なような気がして、錠剤と水薬にしてもらった。
「2、3日安静にしていれば何とかなるじゃろ。そんなことより儂ァお嬢さんみたいな若い子を診察したかったんだがね。」
「生憎私は元気なのよ。また今度ね、お爺ちゃん。」
体に冗談めかして伸ばされたスケベな手を謝礼で振り払って、苦しそうな彼の枕元に座った。綿でできた、いわゆるパジャマって感じの寝巻きが、なんとも言えずキュートだ。そんな感想を述べたらきっと野良犬のように唸られてしまうんだろうけど。
「感染るぞ。」
彼が呻いた。汗の浮く額と熱っぽい視線にどうしようもなくゾクゾクする。私も重症だ。不謹慎にもきゅんときた気持ちを、濡れた布巾とぎゅっと硬く絞って、額の汗を拭いてあげる。
「何か欲しいものある?」
「煙草。」
「ばか言わないで。食べ物とかよ。」
「今はいい。少し寝る。」
ベッドの脇にそのまま腰掛けていると、一度閉じた目を片目だけ開けて、不満げに私を見た。
「次元。寝てていいのよ?」
「そんなに見られちゃ眠れねぇな。」
目を塞ぐように手を重ねる。
「すごく熱いね。」
「ああ、お前の手は冷たくて気持ちいいな。」
私の手が冷たいのは、あなたが心配だからだよ。浮かんだ言葉を口の中で転がしていると、彼はやがて、規則正しく寝息を立てて、眠りに落ちていった。
***