2匹の子猫
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夕方、ポツリポツリと、みんながアジトに戻って来た。私たちの奇妙な風体を見て、五ヱ門は神妙な顔をして、ルパンは笑いをこらえるのに必死で、不二子ちゃんは眉を潜めた。次元は相変わらず帽子を目深にかぶって、口をへの字に曲げたままで、そして私は、いつまでも火照ったままの頰を、どうすることもできない。
「ねぇ、あのさ…いい加減にこれ、やめない…?」
「3日分。」
「何が。」
「お前がひっついて来なかった時間だよ。」
「取り返すつもりなの?」
彼が喉の奥でくっくっと笑った。
「…ほんと、甘え方が下手だよね。」
拳を胸にぶつけるけれど、私の小さい拳では、彼を威嚇することもできない。顔をあわせると、意地悪に歯を見せて笑う。こういう時は、何だか男の子って感じがしてしまうんだ。すっかり立派なヒゲを蓄えたいいおじさんなのに。いい加減に腰を浮かそうとすると、再び強い腕に引き戻された。
私が座るのは、ソファの上。の、次元の膝の上。
子供がぬいぐるみを膝に抱くように、私はされるがままに膝の上なのである。少しでも身をよじったり、お尻を浮かそうとすると、膝の上に引き戻される。
「重たくない訳?」
「さぁな。」
「もう、だったら下ろして。」
「練習しろっつったのはお前だろ?」
「だからってこんなやり方。」
彼がテーブルの上の道具箱に手を伸ばした。上体が傾いて、彼の胸板が背中に密着する。体の触れ合いに背筋が痺れる。
「ねぇ、もう、本当に苦しいんだけど。」
「何が。」
彼の低い声が頭に響く。そもそも、我慢していたのは私の方なんだ。飢餓状態から過剰摂取したら、体がおかしくなってしまう。彼は何事もないように、機嫌よく愛銃を手入れしている。触れ合いが嬉しいのと、周りの目への羞恥心でぐちゃぐちゃで、涙が溢れそうになる。悔しくなって、思わず悪態をついた。
「じ、次元だって…。」
「なんだよ。」
「その…あ…当たってるから、さっきから。」
精一杯のやり返しで、時々お尻や背中に当たるもののことについて触れると、さすがに決まり悪そうに彼は身じろぎした。仕事道具の手入れを終えて、パタンと道具箱を閉じる。
不意に膝の上から降ろされた。腰を持たれるとむず痒い。あれだけ恥ずかしくて早く下ろして欲しかったのに、いざ降ろされると、膝の上の温もりが恋しい。彼は手を念入りに洗った。
「さて、行くか。」
次元が誰へともなく呟いた。新聞を眺めていたルパンが顔を上げる。
「どこへ?」
「ま、どっかその辺だよ。」
無言で促されて、次元の後に続く。しつこかったほどのふれあいの余韻に呆けていると、玄関の戸を閉めた所で、不器用に彼が指を絡めた。驚いて彼を見ると、片眉を上げて返事をする。
「こうしたいんじゃなかったのか?」
「もう…本当に甘えるのが下手だよね。」
不器用で無愛想な黒猫の手をそっと握り返して、日の暮れつつある道を、二人で誰の視線も気にならない場所を目指した。
Fin