キスの練習
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女であることがこんなに嬉しい日があるとは思いもよらなかった、
3人と仲間になれたことは、とっても嬉しかったから、女であることや、非力であることを理由に距離を置かれたりしたらどうしよう、と思って、いつも怯えていた。
昼間起こったことの成り行きを、失敗した実験のことを、訥々と話した。次元はゆっくりと聞いて、タバコを一本取り出し、火を付けた。
「かもめは、もっと人を頼ることを覚えたほうがいい。俺たちだってお互いに結構甘えてる。そうやってバランスよくやってくんだよ。大人ってやつは。」
不器用な彼の優しさに、黙って頷いた。我ながらヘソを曲げた子供みたいだ。何か喋り出したら、余計なことを口走ってしまいそうになる。無口になった私を気遣うように、左手がまた私を撫でる。心地よさに目を細めた。心地いい。泣きたくなるほど。
「私はまだまだ子供なのね。」
やっと彼が私に手を出さないように気を使う理由に思い当たる。きちんと精神まで成熟していなければ、彼は罪悪感に苛んで、私を抱いてはくれないのだ。そう、彼は、大人だから。
そういうところが大好きなのだけど、こんなに近くにいるのに、埋まらない距離に切なくなった。
次元はかける言葉に迷ったように手を止めた。窓を薄く開けて、煙の逃げ道を作る。ふっと煙を吐いて、続けた。
「練習。」
「うん?」
「練習しろよ、頼ったり、甘えたり。…俺が相手じゃものたりねぇか?」
「まさか。」
私は、震える小さな喜びと戸惑いに、シートに膝を抱えて座り直した。
「今更遠慮なんてすんじゃねぇ。距離取ってんのはお前の方だぜ。」
「…次元の言ってることは理解できる。でも、私本当にだめなんだ、甘え方? わかんなくて。頭真っ白になっちゃう。」
困ってしまって俯いていると、今度はポンポンと軽く頭を撫でられた。
「なんでもいい、小さいことからでいい。俺に頼め。無理なら断るし、それが理由でお前から逃げたりはしねぇ。」
「じゃあさ、」
「おう。」
こんなこと頼んだら、また子供扱いされちゃうのかと一瞬迷った。でも、今私が欲しいものは一つしかない。
「もっと撫でて、頭。…こんなお願いじゃ、やっぱり子供かな?」
次元はタバコを消して、シートを後ろに下げた。無言で、こっちに来いと膝を叩く。戸惑っていると、しびれを切らしたように彼ががなった。
「そっちにいると撫でづらいんだよ。」
帽子を深くかぶり直したところを見るに、彼も照れているらしい。その優しさが嬉しくて、無邪気な気持ちでその胸元に忍び込んだ。暖かかった。
膝の上に座ると、私の頭頂部から後頭部にかけての頭のラインを、彼のゴツゴツした手がなんどもなんども行ったり来たりする。思わず吐息が漏れた。
「今日みたいなことがあったら、また次元を頼っていいの?」
「そりゃどういう意味だよ。」
やっといつものような軽口が叩けるようになっていた。何も怖がることはなかったのだ。私がつまずいても、引っ張り上げてくれる人がここにいる。
「…この体制はキツイな。」
「ごめん、重い?」
「違ぇよ。」
次元は腰を軽く身じろぎさせる。そういう意味か、とやっとわかって、やっと熱の引いた頬が、また燃えたように熱くなる。
次元はまた一本、ソフトのケースを振って、タバコに取り出し火をつけた。
「タバコ、私にも。」
「お前に?」
「練習。」
さっきの会話を思い出して、次元はおとなしく箱からタバコを出してくれる。火をつけようとする右手のジッポをやんわりと断って、彼の口元から火をもらった。
***