キスの練習
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「まぁ…その、気にすんなよ。」
顔を見る口実に作った、アジトに辛うじて残っていた硬くなったパンに、ツナの缶詰を挟んだサンドイッチ。扉を開けると、いつもわずかに香る、かもめの甘い汗の匂いが、濃厚に漂っていた。思わず生唾を飲む。床板の軋みと共鳴する自分の理性の悲鳴を聞きながら、ギクシャクと窓を開ける。外の冷たい空気にほっと息をついた。
「なんで居たの?」
「忘れもんしたんだよ。」
「そう。」
「食わねぇのか?」
かもめは黙ってサンドイッチを手に取った。もさもさと硬いパンを齧る音だけが響く。なんと言ったらいいのか分からないくて、頭を掻く。
「…ナイショにしてね、他の二人には。」
やっと喋ったと思ったら、あまりに可愛らしい申し出だった。かもめは困ったように笑った。煽られているのか、俺は。
「恥ずかしいのは私の方なのに、どうして次元が赤くなるの?」
「ばか、お前、そりゃあ…。」
言葉に詰まると、かもめは諦めたようにふぅ、と息をついた。
「…次元だったから、よかったよ。」
「そりゃどういう意味だ。」
「次元になら、まだ恥ずかしいところ見られても我慢できるってこと。」
一瞬目があうが、気恥ずかしくて、ツナサンドに視線を落とす。
「次元こそ食べないの?」
一歩でもそっちに近づいたら、理性を失いそうで、出来るだけ距離をとってサンドイッチに手を伸ばした。その手をぎゅっと掴まれた。思わず声を荒げてしまう。
「…っなんだよお前!」
「こっちのセリフだよ!全然こっちみて話してくれないじゃん。」
「お前がそんな格好してるからだろうが!隠せ!」
かもめはキョトンとして、自分の服装についてようやく考えが及んだらしく、素肌に羽織ったカーディガンの前のボタンを詰めた、
「これでいい?」
「下も履いてくれ。」
「これ、パンツじゃないよ?」
「分かってる。」
かもめの寝間着のぴったりとしたスパッツは、素肌こそ隠すものの、足から臀部にかけての形を露わにして、むしろ目に毒だ。
「意外だな。次元、私のこと、そんな風に見れないと思ってた。」
「バカ言え。男なんかみんな一緒だよ。」
「ふうん。」
帽子を深く被り直すと、一瞬、かもめの目が輝いた。まずい。新しいおもちゃを見つけた子どもの目だ。嫌な予感に顔を背けていると、床に柔らかい布が落ちる音がした。
「次元、次元。」
「ったく何だよ。」
急に距離を詰めてきたと思えば、羽織ったカーディガンとスパッツは床の上。上下揃いの下着姿だ。
「だぁ?!やめろって、お前、バカ。」
「すごいね、次元にも弱点ってあるんだ。」
羞恥心を忘れて感心するかもめを、顔を手で覆って見ないようにするが、そんなのお構い無しに、瞳を輝かせてヤツは迫ってくる。狭い部屋で、バタバタとやかましく鬼ごっこが始まった。
「ほらほら、ちゃんと見てよ。」
「痴女かお前は。こういうもんは大事な時にとっとけって。」
部屋の隅まで追い込まれたところで、かもめはクスクスと笑い始めた。笑いすぎて目の端に浮かんだ涙を拭う。外でタイヤが小石を踏む音が聞こえてきて、慌てて距離をとった。
***