キスの練習
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このアジトは、めちゃくちゃ壁が薄い。
個室を用意してくれたことには感謝するけど、正直いうと分けた意味がないんじゃないかと思うくらいに、壁が薄い。
隣の部屋では次元がおじさんっぽいくしゃみをするのが聞こえるし、上の階でルパンが歩けば、床板ががギシギシときしむ音が聞こえる。下の階の五ヱ門からは何も聞こえないけれど、彼はただ静かなのだろうと思う。
まあ、それほど神経質な方じゃないし、人と暮らしている感じがして、別に嫌じゃない。
嫌じゃないんだけど、今はただこの壁の薄さが妬ましい。
ある実験に、ほんのちょっと、失敗してしまったのだ。
私が今実験していたのは、フェロモンについて。3人と仲間である以上は、危険な目にあうこともやっぱり少なくなくて、女であることが仇になってしまうようなシチュエーションに、今まで2、3度あったのだ。乱暴な輩から、もう少し自警を高めようと、一時的に男性を不能にするような薬剤が作れないかと腐心していたところだった。
さて、世の中には、女子には性欲なんて野蛮な物はないと思っている人がいるらしいけど、全くそんなことはない。
どういうわけだか、その男性不能用の薬剤は、失敗して、女の性欲を高める真逆の物質になってしまったのだ。そして私はそれをもろに吸い込んでしまった。
今までと同じに生理現象として、普通にいつものように一人でひっそりと処理してしまえればいいのだけれど、如何せんこの壁の薄さは。
自分が男だったなら外にそっと出かけて致して、ということもできなくもなかっただろうけど、残念ながら私は女子なのだ。
火照ってクラクラする頭を抱えてベッドに倒れこむと、上からギシギシとルパンが階段を降りてくる音がした。コンコン、と、ノックが響いて、乾いた色のドアが開いた。
「かもめちゃん、昼食べに行こうぜ。」
時計を見ると、もう昼をとうに過ぎていた。でもルパン、とてもランチなんか食べている場合じゃないんだよ、私。
「あー、私はいいよ、みんなで行ってきて。」
「? 具合でも悪いのか?ちょっと顔赤いみたいだな。」
「ちょ、ちょっと風邪っぽくて。でも大丈夫、少し休めば治るから。」
「そうか? なんか食べるの買ってこようか、何がいい?」
「えっと、本当に大丈夫だから。気にしないで、ゆっくり行ってきていいからね。」
慌ててごまかして見送ると、ルパンは隣の次元にも声を掛けに行った。隣の部屋の会話が丸聞こえだ。
『かもめ、風邪引いてんのか?』
『盗み聞きたぁらしくないねぇ次元。』
『ここは壁が薄すぎんだよ。あいつの寝息まで聞こえやがる。』
『んじゃ、かもめちゃんはお前のいびきに苦しんでるってこったな。』
『俺ぁイビキなんざかかねぇよ。画鋲で刺したら向こうが見えんじゃねぇか?この壁。』
ヤイヤイ言いながら、二人は下に降りていく。今日ばかりは一刻も早く出て行って欲しい。熱を持った下腹部を押さえる。
流石に下の会話までは聞き取れなかったけれど、やがて窓から走っていく車が見えた。思わずガッツポーズを取ってしまう。ああ、どうか皆さん、ごゆっくり!
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