夜明けに白い花束を
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「花束が欲しいな。買ったやつじゃなくて、次元が摘んだの。」
アジトの窓のへりに腰掛けて、かもめはつま先が赤く染まった幼げな素足を揺らしている。そう言うことじゃないんだが、と言いたくなって、その子供みたいな無邪気な笑顔に言葉を引っ込めた。何を望んでいるのかわからなくて不安になる。出来るだけしゃんと背を伸ばした綺麗な花を摘むが、あいつが欲しがっているものがてんで分からない。
両手いっぱいになった花を持って、かもめの元に戻る。自信はないが、花を渡すと、かもめはにっこりと笑った。
「最高。」
頰に、もどかしくなるほど柔らかい唇で小さくキスをされる。泥で汚れた手じゃ仕返しもできずに、自分でもよく分からない苛立ちを、飛び上がるほど冷たい水で洗った。
「何が欲しかったってんだよ。」
「この花はさ、どっこにでも咲いてるんだよ。」
花に興味はないが、そんなことは知ってる。だから分からないのだ。なんでわざわざこんなにどこにでもあるような花を、わざわざ摘ませたりしたのか。焦れったくて声が荒くなる。
「そんな安い花を俺から欲しかったのか?」
「違うって。どこにでも咲いてるから、この花を見るたびに、次元が私のために花を摘んでくれたこと、思い出せるでしょう?…世界中の花をプレゼントされたようなものだよ。私って強欲なの。知ってた?」
「お前ってやつは。」
斜め上から小突かれたような衝撃だった。ジリジリと、へその裏でも擦られているようなこそばゆさが湧いてくる。二の句が継げずに歯ぎしりしていると、冷え切った手を熱い頰に寄せて、畳み掛けるように奴は言った。
「ありがとう。大好き。」
「お前にゃ、叶わねぇな。」
柔らかい頰にこみ上げる情熱をどうしたらいいか分からずに、とにかく口を寄せた。欲しいものはないかと、仕掛けた自分の方がなぜこんな気持ちにさせられているんだ。自分の頰が耳まで赤くなっているのがわかる。見られたくなくて、冷え切った手を武器にした。外から車のエンジンの音がして、奴らが帰ってきたとわかる。この場から抜け出すチャンスとばかりに、帽子を深く押し付けた。玄関まで逃げ切ったところで、まだ自分の頰が熱いことに気づく。
古い付き合いの仲間が笑った。何をそんなに赤面しているのかと。自分だって分からない。
振り向けば、真っ赤な顔を自分の帽子に隠した、小さな相棒が立ちすくんでいた。
Fin
アジトの窓のへりに腰掛けて、かもめはつま先が赤く染まった幼げな素足を揺らしている。そう言うことじゃないんだが、と言いたくなって、その子供みたいな無邪気な笑顔に言葉を引っ込めた。何を望んでいるのかわからなくて不安になる。出来るだけしゃんと背を伸ばした綺麗な花を摘むが、あいつが欲しがっているものがてんで分からない。
両手いっぱいになった花を持って、かもめの元に戻る。自信はないが、花を渡すと、かもめはにっこりと笑った。
「最高。」
頰に、もどかしくなるほど柔らかい唇で小さくキスをされる。泥で汚れた手じゃ仕返しもできずに、自分でもよく分からない苛立ちを、飛び上がるほど冷たい水で洗った。
「何が欲しかったってんだよ。」
「この花はさ、どっこにでも咲いてるんだよ。」
花に興味はないが、そんなことは知ってる。だから分からないのだ。なんでわざわざこんなにどこにでもあるような花を、わざわざ摘ませたりしたのか。焦れったくて声が荒くなる。
「そんな安い花を俺から欲しかったのか?」
「違うって。どこにでも咲いてるから、この花を見るたびに、次元が私のために花を摘んでくれたこと、思い出せるでしょう?…世界中の花をプレゼントされたようなものだよ。私って強欲なの。知ってた?」
「お前ってやつは。」
斜め上から小突かれたような衝撃だった。ジリジリと、へその裏でも擦られているようなこそばゆさが湧いてくる。二の句が継げずに歯ぎしりしていると、冷え切った手を熱い頰に寄せて、畳み掛けるように奴は言った。
「ありがとう。大好き。」
「お前にゃ、叶わねぇな。」
柔らかい頰にこみ上げる情熱をどうしたらいいか分からずに、とにかく口を寄せた。欲しいものはないかと、仕掛けた自分の方がなぜこんな気持ちにさせられているんだ。自分の頰が耳まで赤くなっているのがわかる。見られたくなくて、冷え切った手を武器にした。外から車のエンジンの音がして、奴らが帰ってきたとわかる。この場から抜け出すチャンスとばかりに、帽子を深く押し付けた。玄関まで逃げ切ったところで、まだ自分の頰が熱いことに気づく。
古い付き合いの仲間が笑った。何をそんなに赤面しているのかと。自分だって分からない。
振り向けば、真っ赤な顔を自分の帽子に隠した、小さな相棒が立ちすくんでいた。
Fin