夜明けに白い花束を
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
冴え冴えと冷たい空気が肌を刺す、埃っぽいアジトで、カビ臭い重たい毛布の下で目が覚めた。柔らかな髪が鼻先をくすぐって、思わず顔をしかめる。
眠りながら繋いでいたのか、無意識に重ねていた手のひらが、透き通るように白くて、絹のように滑らかで、思わず指でなぞった。若さを理由に惚れ込んだ訳じゃないが、自分よりずっと若い恋人だ。時折自分は贅沢すぎる思いをしているのではないかと、訳もなく不安になる。
巷では老けた男が若い女の時間を買うためにあれこれ腐心していると聞いた。そんな奴らから見たら自分はチートなんじゃないかと。
まあ、こう長く生きていれば、何度か女と肌を合わせたり、暮らしをともにしたこともある訳で。
もちろん男として食事をご馳走したり、車を転がしたり、ものねだりに応じたこともある。女は生きているだけで価値がある、そんなうっすらとした男の暗黙のルールのもとに。
しかし、今の俺の恋人は、群を抜いて、何も欲しがらない恋人だった。
恋人が腰に来るような甘い呻きをあげて目を開けた。目があうと、とろけるように笑う。その顔につられて、自分の顔もふにゃりと歪むのがわかる。
「おはよう。」
「ああ、おはよう。」
「寒いね、まだ布団から出たくないや。」
「ああ、だがそろそろあいつらが戻って来るぜ。」
随分と甘い目覚めだったが、今は仕事の最中なのだ。
「あとちょっとだけ…。五分だけ…。」
自分の足の間にするりと滑らかな足が割り込んで来る。服越しでもその柔らかさを感じて身震いをする。その無邪気な振る舞いがどれだけ男を動揺させるのか、わかっているのかいないのか。
その柔らかさを弄んでいじめてやりたい気持ちを抑えて、毛布から抜け出した。
「あぁん、次元。行かないで。」
寝ぼけた恋人に後ろ髪を引かれながら、湯を沸かす。
恋人はーーかもめは。
服やら鞄やらのブランドも今ひとつ解していないようだし、宝石にも興味がない。綺麗な景色や変わったものを見せれば喜ぶが、贈り物としては大きすぎる。唯一関心がある書物の類は、俺にはよく分からない。
普段そう、所謂ジェネレーションギャップを感じる事こそないものの、時代的なものもあるのかもしれない。「所有すること」に、特に欲を持っていない。きっと指輪なんかを手渡した日には、「どうしたの?」と眉をひそめるだろう。具合でも悪いの?と。
いつもより丁寧に淹れたコーヒーを、少し歪んだスチールのカップに注いで、枕元に座った。
「熱いぞ。」
恋人はのそのそと起きだして、コーヒーを受け取ったかと思えば、案の定わたわたとカップを持て余し、自分の袖口をダブダブに引っ張ってようやく落ち着いた。
「熱いっつったろう?」
「なんで普通に握れるの、おかしいよ。手の皮かかとぐらい分厚いんじゃないの。」
「お前の手の皮が薄すぎるだけだろうが。まぁお前のやわっこいかかとぐらいはあるんじゃねぇの?」
コーヒーにふうふうと息を吹きかけながら悪態を突き合う。
「目が覚めただろ。」
「おかげさまで。」
寝起きの天使のような顔は何処へやら。
「なぁ、何か欲しいものないか?」
「どうしたの、急に。」
「欲しがらないだろう、お前。」
「欲しいものは自分で手にいれる主義だもの。」
口を開けば、そんな可愛くないことを言う。
「贈り物がしたい気分なんだよ。」
「ふぅん。そう言う次元はないの。」
「俺はいつも貰ってるからな。」
「何を?」
「全部説明させる気か?」
告げようとした意味をやっと察したようで、かもめは眉間にしわを寄せて頰を染めた。しばらくカビ臭い毛布を指先でちぎった後で、決意したように切り出した。
「そうね、それなら。」
***
眠りながら繋いでいたのか、無意識に重ねていた手のひらが、透き通るように白くて、絹のように滑らかで、思わず指でなぞった。若さを理由に惚れ込んだ訳じゃないが、自分よりずっと若い恋人だ。時折自分は贅沢すぎる思いをしているのではないかと、訳もなく不安になる。
巷では老けた男が若い女の時間を買うためにあれこれ腐心していると聞いた。そんな奴らから見たら自分はチートなんじゃないかと。
まあ、こう長く生きていれば、何度か女と肌を合わせたり、暮らしをともにしたこともある訳で。
もちろん男として食事をご馳走したり、車を転がしたり、ものねだりに応じたこともある。女は生きているだけで価値がある、そんなうっすらとした男の暗黙のルールのもとに。
しかし、今の俺の恋人は、群を抜いて、何も欲しがらない恋人だった。
恋人が腰に来るような甘い呻きをあげて目を開けた。目があうと、とろけるように笑う。その顔につられて、自分の顔もふにゃりと歪むのがわかる。
「おはよう。」
「ああ、おはよう。」
「寒いね、まだ布団から出たくないや。」
「ああ、だがそろそろあいつらが戻って来るぜ。」
随分と甘い目覚めだったが、今は仕事の最中なのだ。
「あとちょっとだけ…。五分だけ…。」
自分の足の間にするりと滑らかな足が割り込んで来る。服越しでもその柔らかさを感じて身震いをする。その無邪気な振る舞いがどれだけ男を動揺させるのか、わかっているのかいないのか。
その柔らかさを弄んでいじめてやりたい気持ちを抑えて、毛布から抜け出した。
「あぁん、次元。行かないで。」
寝ぼけた恋人に後ろ髪を引かれながら、湯を沸かす。
恋人はーーかもめは。
服やら鞄やらのブランドも今ひとつ解していないようだし、宝石にも興味がない。綺麗な景色や変わったものを見せれば喜ぶが、贈り物としては大きすぎる。唯一関心がある書物の類は、俺にはよく分からない。
普段そう、所謂ジェネレーションギャップを感じる事こそないものの、時代的なものもあるのかもしれない。「所有すること」に、特に欲を持っていない。きっと指輪なんかを手渡した日には、「どうしたの?」と眉をひそめるだろう。具合でも悪いの?と。
いつもより丁寧に淹れたコーヒーを、少し歪んだスチールのカップに注いで、枕元に座った。
「熱いぞ。」
恋人はのそのそと起きだして、コーヒーを受け取ったかと思えば、案の定わたわたとカップを持て余し、自分の袖口をダブダブに引っ張ってようやく落ち着いた。
「熱いっつったろう?」
「なんで普通に握れるの、おかしいよ。手の皮かかとぐらい分厚いんじゃないの。」
「お前の手の皮が薄すぎるだけだろうが。まぁお前のやわっこいかかとぐらいはあるんじゃねぇの?」
コーヒーにふうふうと息を吹きかけながら悪態を突き合う。
「目が覚めただろ。」
「おかげさまで。」
寝起きの天使のような顔は何処へやら。
「なぁ、何か欲しいものないか?」
「どうしたの、急に。」
「欲しがらないだろう、お前。」
「欲しいものは自分で手にいれる主義だもの。」
口を開けば、そんな可愛くないことを言う。
「贈り物がしたい気分なんだよ。」
「ふぅん。そう言う次元はないの。」
「俺はいつも貰ってるからな。」
「何を?」
「全部説明させる気か?」
告げようとした意味をやっと察したようで、かもめは眉間にしわを寄せて頰を染めた。しばらくカビ臭い毛布を指先でちぎった後で、決意したように切り出した。
「そうね、それなら。」
***