君のにおい
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夜中に何度も目を覚まし、何度も隣に彼の温もりを確かめた。このまま朝が来なければいいのに。
「そう何度も起きなくたって、黙って出ていきゃしねェよ。」
目を閉じたまま、彼が悪態をついた。
「…起きてたの?」
「そんなにモゾモゾしてりゃ嫌でも起きる。」
お酒を飲んだせいもあって、少し冷える夜だった。薄手のシーツを手繰りながら、彼にも声をかける。
「寒くない?」
彼は黙って私の腕を引き寄せて、胸元に顔を埋めた。髭が胸元にチクチクとくすぐったい。頭を撫でて、腕でそっと包み込む。
「今日は随分甘えたさんじゃない。」
「寂しいのがお前だけだと思ったら大間違いだぜ。」
「初耳。」
「言ってねぇからな。」
「言ってくれればいいのに。」
「格好つかねぇだろ。」
「そうかな。…そうね、格好つけさせてあげる。」
「生意気。」
私の首の間で彼が深く息を吸った。
「なぁに?」
「お前って甘い匂いがするよな。何かつけてんのか?」
「別に何も…石鹸かな?」
「いや、石鹸じゃない。」
しばらくクンクンと鼻を蠢かせていたが、諦めたように耳に軽く歯を立てた。甘い痺れに吐息が漏れる。
「香水だったら持って行くんだが。」
「寂しい時に嗅ぐの?」
「お前がタバコを吸うみたいにな。」
「でも、タバコじゃ全然足りないよ。タバコやアルコールより、こうして体をくっつけてる方が何倍も気持ちいい。」
「俺だってそうだよ。」
硬い彼の手のひらが私の背中を撫でた。甘い苦しさに背筋がゾクゾクする。
歳が違う、趣味も違う、住んでる世界が違う。それでも巡り合って、こうして身を寄せ合うことができた奇跡のような一瞬に、温かい涙がこぼれた。
「泣いてんのか?」
「さぁ、どうかな。…ぎゅってしてくれる?」
ほんの少しテンポが違う、重なって脈打つ鼓動に愛おしさが溢れた。湖から新鮮な水がとめどなく沸き立つように、枯れそうにもない愛おしさに呆れた。
「次元、死なないでね。」
「なんだよ急に、縁起でもねぇ。」
「じゃあ言い方変えるわ。生きてて、ずっと。」
「ずっと、は約束できねぇな。」
「なんでもいいの。好きなの、あなたが。」
彼の長い足が股を割って絡まった。溢れる愛おしさに重ねた唇は、ほんの少し苦かった。