名前を呼んで
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「かもめ。」
「次元。」
アジトの裏手の石垣、日暮れ。本当に陽が沈む寸前。冷たい風がさわさわと草を撫でる音がする。
「名前、ごめん、いつもは何だか、恥ずかしくて。」
「いや、いい。俺も別に気にしてねぇんだ。…方便で言っちまっただけで。」
わずかな沈黙が訪れた。
聞きたいことがある。
だが、うまい聞き出し方がわからない。魚の見えない湖畔に釣り糸を垂らすような気持ちで話し始めた。
「俺ァあんまり夢を見ない方でな。」
いきなり突飛もない話を始めたので、かもめが首をかしげる。
「でも昨日見た夢は忘れらんねぇ。」
「どんな夢だったの?」
「チョコレート。」
「チョコレート?」
あまりにも突飛もない夢の内容を話すのが躊躇われて、多分お前が昨日、ホットチョコレート、寝る前に飲んでただろう?あのせいだと思うんだが、と前置きした。
「俺とお前でカヌーに乗って、チョコレートの海を渡るんだよ。」
「随分ファンタジックな夢を見るのね?」
「こんな夢滅多に見ねぇよ。」
「それで?無事に海は渡れたの?」
「それが結構荒波でな、俺は背広を汚したくなくて、小さくなってるんだ。遠くにルパンが溺れてるのが見えて、でもお前はそんなの全然気にせずに、俺に薄く切ったトーストを出してくる。チョコ塗って食べるとうまいよって。」
「私、夢の中でもそんなに呑気なの?」
かもめはクスクスと笑った。
「お前は夢見ないのか?」
「夢?しょっちゅう見るよ。全部は覚えてないけど…そういえば、次元が夜いない日、いつも同じ夢を見るな。」
「どんな?」
「短い夢だよ。霧の深い日、私は高い建物の一室にいて、窓を開けたら、ずっと離れた下のところに、帽子を深く被った人がいるの。迷ってるみたいだから、こっちだよって呼ぶの。」
ルパンが説明した言葉が蘇る。
『次元が外してる日の夜、かもめちゃんは呼ぶんだぜ。お前の下の名前。』
俺がいない日なら、十中八九俺がその呼び声を聞くことはないじゃないか。しかしながら、こいつが夢の中で呼ぶから、毎度毎度しっかり帰ってこられるのか、そんなことを思った。
「霧があんまり深いから、誰だかわかんないんだけど。迎えに行かなきゃ、と思って、下まで降りるとね、ようやく顔が見えて、嬉しくなって呼ぶの。」
目があった。かもめは柔らかく微笑む。
「大介…って。」
***