はみがき
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「歯医者さん行くまでキス禁止。」
痛みに頬を擦る日々を続けていたら、ついにそんな宣言をされた。眉を潜めると、ヤツはいつものように続ける。子供を叱るように、甘えた声で。
「乳幼児の口には虫歯菌って居なくてね、そりゃもちろん歯がないから当たり前なんだけど。その多くは親からの唾液感染なんだよ。」
「俺のは虫歯じゃねぇ。」
「じゃあ何?」
「ただの歯痛だ。」
「同じことじゃない。」
「知覚過敏。」
「なおのこと一度お医者さんに行った方がいいよ。」
「誰が歯医者なんか行くかよ。」
ふと腫れた頬に柔らかい唇が触れた。良くなるおまじない、とそのまま耳元で囁く。いってらっしゃい、とひらひらと手を振るジェスチャーをして、眩しいくらいの笑顔でかもめは自室に帰っていった。今日ばかりはあいつが悪魔に見える。
ため息をついてソファに深く腰を下ろす。傍らの新聞をぱらぱらとめくった。歯医者なんか行ってやるもんか、
そう啖呵を切ったばかりなのに、目は自然と広告欄の病院の欄を眺めてしまう。
「たっだいま〜。」
「おう。おけーり。」
「かもめちゃんは?」
「部屋だよ。」
「そっか。…次元、頼まれた薬買っといたぜ、ほら。」
「ん…。」
買い物を済ませてアジトに戻った相棒は、紙袋から頼んでいた鎮痛剤を投げて寄越した。30錠入り。暫くこれで誤魔化す気でいたんだが。眺めていた新聞広告を覗き込んで、相棒はいつものうざったいニヤケ面をかます。
「んお? なんだ?ついに歯医者に行く気になったか?」
「アイツが歯医者に行くまで禁止だと。」
「何を。」
「キス。」
「あらかわいい。そりゃ行かないわけには行かないねぇ次元チャン。」
隣にどっかりと腰掛けて、揶揄うように肘で突かれる。喧しい。
「土台なんでそんなにキライなのよ、歯科衛生士のオネーチャンなんて美人揃いじゃないのよ。」
「うるせぇ、俺はキライなの。薬品の匂いと、…あの音。」
あのドリルの音が好きな人間なんてこの世に居ないだろう? 思い出して身震いした。
***