ままごと
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2組あった布団はやはり薄すぎて、いつものように体を絡めて暖をとった。外で風が吹くと、家が鳴る。
「…悪いな。」
「なにが。」
くぐもった声が胸の中で答える。
「付き合わせて。」
「そんなこと言っちゃやだよ。」
胸元に柔らかい頬が擦り付けられる。子猫のようなそいつの頭を軽く撫でた。
「あんまり自惚れないでよね。次元に付き合わされてんじゃなくて、私が好きで付き合ってるの。…私があなたを選んだの。」
「言うじゃねぇか。」
「…次元も私を選んでくれたでしょ。」
暗に指輪のことを言っているのだと察して、言葉が出なくなる。
「…違った?」
かもめは不安そうに眉を下げたまま微笑んだ。
「違わねぇよ。違うもんか。」
力一杯抱きしめると、柔らかい体が子猫のように鳴いた。首筋に顔を埋める。こいつの匂いがする。ここに居ることを、生きていることを確かめたくて、その甘い匂いを汚れきった肺に吸い込んだ。
「…したいの?」
「…あ?」
「次元、したい時、私の首のとこ、そうするじゃない。」
覚えのない癖を指摘されて、顔が熱くなるのを感じた。正確には違う。この匂いを嗅ぐとしたくなるのだ。体の熱を深く確かめたくなる。胸元に手を伸ばしかけると、かもめは笑った。
「でも、だめです。今夜はお預け。」
「何だよ、煽るようなこと言って。」
「体を怪我してるときはしないって約束でしょ。」
「もう治った。」
「ばか。お医者さんも一週間は安静にって言ってたじゃない。」
「指だけだ。怪我のうちにゃ入らねぇ。」
「だーめ。…少し安静にして、ここを出て、フカフカのベッドの上でにして。」
「景気良く姫初めと行きたかったのによ。」
「次元のえっち。ちょっと、ヒゲ、くすぐったいったら!」
しばらく体をくすぐりあって笑った。心地よく疲れて、眠気が襲う。
「…次元、」
「んー?」
「我慢してるのが自分だけだと思わないでね。」
柔らかい手のひらが一瞬股の間を滑って行った。
「…おやすみ。」
こいつも変わったもんだ。俺のおっかなびっくりなエスコートに、悲しくなるほどひたむきに付いて来たかと思ったら、今はこちらが手を引かれている。こいつのこういうところが堪らない。
根無し草の泥棒家業、何も約束できない俺たちには、どんなに尊い日々も所詮はままごとだ。だが、この日々を忘れることはないだろう。指輪を無くしても、時計が壊れても。誰にも盗めない、他人にはさして価値のない宝。
「さて、ハネムーンはどこにすっかな。」
浮かれた独り言に、寝たふりの子猫が身を屈めて応えた。
Fin