ままごと
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充てがわれた空き家はかなり簡素なものだった。カセットコンロと、小さな石油ストーブ。ペラペラの煎餅布団と、同じくペラペラの座布団が4枚。調理器具は土鍋と、フライパンが1つ。湯呑みが2組、変な模様の皿が4枚。人の手が入って掃除はされているが、管理は甘いようで、どこからか隙間風が入る。
帰り際に買ってきた食材で、雑煮モドキを拵えた。まるでままごとだ。
「おもち、いくつ食べる?」
小首を傾げてそんな事を聞くから、一層その思いは強まった。俺たちのイフにはそんな世界もあったのだろうか。貧しくて、ささやかな、小さな家族になること。
「ねぇ、次元てば。」
「…2つ。」
「はいはい。」
こいつを自分以上に喜ばせるにはと、思い切ってらしくない贈り物を贈ったが、何だか新たな呪いを掛けてしまったような気がして、タバコを噛んだ。俺の腕にはかもめからの時計が光る。安っぽい今の服には不釣り合いな時計。
「お箸で平気? スプーンにしよっか?」
「箸でいい。曲げなきゃ大したことねぇ。」
指の怪我は光明か、単なる不運か。
経験したことのない懐かしい時間に感傷的になっているのは、自分だけではないようで、伸びる餅に悪戦苦闘しながら、かもめも呟いた。
「へんな感じ。」
「ん?」
「ずっとこんなふうに暮らしてたみたい。」
「…こんな生活がお望みか?」
穏やかで、退屈で、だけど幸せな。
「そうじゃないけど…そうね。何回か生まれ変わるうちの、一回くらいは、こんな風でもいいよ。」
「何度も生まれ変わるほど徳は積んじゃいねぇだろ。」
「言えてる。」
途切れ途切れの会話が、沈黙が、居心地良くなったのはいつからだろう。もう少し、あと少しと隣に居ることを選び続けて、気付けば長い付き合いだ。歌うようにかもめは続ける。
「ふつうに生まれて、ふつうに出会って、ふつうに結婚して、一緒におはかに入るのよ。」
「普通に、ね。」
きっと一緒には死ねない。何より高い、見えないハードルを二人で見上げた。
「…でも、やっぱり、そんなのは退屈ね。」
小さな相棒で、小さな恋人が、小さな強がりを呟く。
***