ままごと
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ご職業は?」
「亭主が小説家なんです。たまたま旅行でこちらに出向いたら、とても気に入ったというので、しばらく滞在させていただこうかと。」
空き家を借りる手続きを済ませる。必要ないだろうという下世話な質問にも、今日のかもめは明るく答える。俺たちは日本にいるのだなぁ、と痛感する。過疎化に歯止めを掛けようと、空き家を破格で貸し出しているというその制度は、お節介な軽い面談を潜れば、割合簡単に借りることができた。
「ご苦労さん。」
「…亭主なんて言葉使ったの、生まれてはじめてよ。」
「俺だって、自分に使われたのは初めてだよ。」
「成り行きで小説家になっちゃったからね、頭良さそうに喋ってよね、先生。」
「あいよ。」
役所から借家に向かいながら、商店街を抜ける。シャッターの閉じた店が多いとは言え、正月の賑々しい雰囲気を感じた。
「お前、いいのか。」
「どしたの?」
「この国、あんまり好きじゃないだろ、お前。」
「うーん…バレてた?」
「どれだけお前の隣に居ると思ってる?」
過去のことになると口を濁し、仕事でも日本だと若干強張った表情をするかもめだ。もう手続きを済ませたとはいえ、本当に良かったのかと不安になる。
「…確かにちょっと苦手なんだよね、いろんなこと、思い出しちゃって。でもさ、」
かもめは照れ笑いを浮かべながら、肩を寄せた。
「私、結構どこでも平気なの。次元の隣なら。」
「そうか。」
素直な言葉にむず痒くなる。
「次元は?」
揶揄うように、2、3歩先を歩きながら、かもめは振り向いた。
「…俺も。」
たった3文字でも、素直な言葉は口に馴染まず、掻き消すように小さな歩幅を追い越した。後ろから鈴を鳴らすような笑い声が、抗議しながら追い掛けてくる。
***