ままごと
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「ただの突き指だ。」
「そうね。ただの突き指だよね。ガンマンの、それも利き腕の。」
皮肉たっぷりにかもめに応急手当てをされ、船着場で仮眠を取った。昼を過ぎる頃、潮風で錆びた、鄙びたデパートで着替えを数着買い漁る。初売りだなんだとひび割れた店内放送がやかましい。着慣れたスーツには程遠いそれは、どうにも購買意欲を唆らない。
「趣味じゃねぇなぁ。」
「文句言わない。日本だと人と違うだけで目立っちゃうんだから。」
着替えて、病院と言うより診療所と呼んだほうが正しいような場所で、念のために診察を受けた。こいつも手馴れたもんだ。行動を共にし始めた頃は、嘘をつくのもたどたどしかったのに、しょぼくれた医者相手に観光客を装って診察の手続きを取り、泊まれる宿がないかのリサーチをさり気なく掛ける。残念ながら、この場所には宿泊施設のような気の利いたものは無いらしい。
仕事着から、人混みですれ違っても気付かないほどの「普通の服」に身を包んだかもめは思案顔のまま呟く。
「…ルパンたちもね、気づいてたと思うよ。」
「ああ?」
「怪我のこと。」
「ああ…」
「でも、私に任せてくれたんだと思う。」
「…どうだかな。」
かもめは何かを思いついたようで、タクシーを捕まえた。
「おや、お客さん、この辺では見ない顔だね。」
「ええ。ついさっき着いたばかりだもの。」
「旅行…って訳でもなさそうだねぇ。」
「ここがとても気に入ったから、少し滞在しようとおもって。運転手さん、少しの間、借りれる空き家とか知らないかしら。ウィークリーみたいなものでも構わないんだけど。」
「こんな田舎ににそんな気の利いた宿泊施設施設は無いけどねぇ…そうだ、丁度空いてる民家を貸しているところを知ってるよ。地域活性化だとかなんとか。誰も借りちゃいないから、期待しないほうがいいとは思うけどね。」
「構いません。ありがとう、助かります。」
完全によそ行き風情を装ったかもめが不気味ですらある。そういえばこんな愛想笑い見たことがない。きっとかもめを知らなければ、ただの溌剌とした若い女に見えただろう。
「羨ましいねぇ、旦那さん。こんなに若くて綺麗なお嫁さん。」
調子のいい運転手の言葉にはっとする。以前は親子に間違われることの方が多かったが、今のかもめの指には、光る指輪。クリスマスに言い訳をして、冗談のように誤魔化して贈ったものだ。それは、客観的に見れば、男女二人の関係を公言するようなものだった。
「…よく言われるよ。」
動揺を隠して調子を合わせた。
***