暖炉のまわりで
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「おう、おかえり。」
その存在が、香りだけでわかる。…全く、部屋をあっためるの意味が違うじゃないか。暖炉の薄明かりで、声の主が大きなあくびをしたのが見えた。
「ごめん、起こした?」
「いや、起きてたさ。」
絶対に嘘なのに。職業柄僅かな物音でも目覚めてしまうだろうから、私がいくら静かに入っても無駄なことではあるけれど、寝ぼけた半目の目が優しくて、胸がぎゅっとなる。テーブルの上に置かれた鉄鍋に水瓶から水をあけて、暖炉で火にかける。適当な温度になったところで、手桶に移し、タオルケットをくぐらせて、硬く絞った。
「そんなにじっと見ないで。」
暖炉の前で服を脱いだ。椅子に腰掛けて、埃っぽくなった顔を拭う。
「拭いてやろうか。」
「いいよ、眠そうなカオしてる。」
私の返事は聞こえなかったようで、次元は濡れたタオルを私から奪った。頬に手を添えて、優しく拭く。
「冷たくなってる。」
「外、冷えてたから。」
次元は無言で私の体を拭いた。今までに幾度か、怪我をしたりして彼に体を拭いてもらったことはあるけれど、私の体を拭くときの彼は独特だ。職人のように丁寧に、怖いくらい真剣に。なんだか見覚えのある顔で、ふと気付いた。マグナムを手入れする時と同じ顔だ。
タオルが身体中を滑っていった。熱くなるのは胸の奥ばかりで、体の末端はまだかじかんで感覚がない。一層冷えた足先を、温かな分厚い手のひらがつつむ。
「氷みてぇだ。」
「やだ、汚いよ。大丈夫だから。」
「大丈夫なもんか、放っといたらシモヤケになっちまうぞ。」
お湯をためた桶を足元に置いて、ゆっくり揉み解すように次元は私の足を洗った。
「っ次元、」
「ん?」
「そんなにしたら、くすぐったい。」
真剣な顔がくにゅ、と、悪戯っ子のように笑う。
本当なら声を上げて笑ってしまう場所なのに、この人が触れると別のくすぐったさに変わってしまうのはどうしたものか。
刺激に耐えかねて丸くなった足先をタオル越しに暴かれて、私のささやかな湯浴みは終わった。
パジャマがわりに充てがわれたセーターは、やっぱり次元のなんだろう。彼の匂いと、覚えのある丈の余袖。そこまでしなくていいのに、次元はそのセーターに私が袖を通すまでを手伝った。きっと私が怪我をした時のことが癖になっているんだろう。嬉しいのでわざと指摘しないでおく。
「まだ冷たいな。」
次元は両手で私の手を包み込み、擦り合わせ、熱い息をかけた。
***