秋の祭に
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以前から思っていたことだが、かもめはどこか抜けているところがある。もう喧騒に紛れる必要はないのだから、衣装は脱いでも構わないのに、律儀に猫の耳を生やしたまま、キッチンに立っている。
鬱陶しい着ぐるみを脱いでしまいたかったが、自分が着替えたらその事実に気付かせてしまいそうで、脱ぎかけのきぐるみを腰で結んで落ち着いた。
無事に戻ってきたルパンと五ヱ門を出迎える。五ヱ門は普段の服装に包帯をぐるぐる巻いているだけだ。
「おいおい、お侍は普段通りじゃねぇか。」
「一応、落ち武者のこすぷれだ。貴様こそ、なんだその格好は。下半身が毛深くなっただけではないか。」
「頭付けると蒸れてしょうがねぇんだよ。一応オオカミ男のきぐるみだった。」
「仔犬の間違いではないのか?」
「野郎。」
「やだ、喧嘩しないでよ。」
かもめは奥から焼き立てのミートローフやパンプキンパイを出してきた。その風体に五ヱ門がたじろぐ。
「あ…一応、わたしは一応、ねこちゃんなんだけどね。」
かもめが変かな?と細い首を傾げると、首元の鈴がちり、と鳴った。
「可憐だ…。」
頬を染める五ヱ門が面白くなくて軽く蹴りを入れる。
仕事終わりの晩餐に心地よく舌鼓を打っていると、嗅ぎ慣れた香水の匂いがした。やっぱりか、と、かもめと顔を見合わせて首を振った。やれやれ。
「ハァイ、ルパン。トリック・オア・トレジャー♡」
「ウヒョ〜!不二子ちゃん、待ってました!」
「待ってたのはテメーだけだよ。」
「あら、失礼ね。」
痴女かとツッコミを入れたくなるような、胸元が大きく開いた魔女の格好の不二子に、ルパンは鼻の下を伸ばし、五ヱ門は鼻先がミートローフに付きそうなほど下を向いた。
「別に横取りしに来た訳じゃないわ。」
「良く言うぜ。」
「魔女の血涙。薬瓶の美しさが国宝に認められた逸品だけど、その真価はその中。薬液の芳香にあるのよ。人を魔法に掛ける香水。平民は王様に、羊飼いは詩人に。そんな伝説があるの。…成分を分析して製薬会社にでも売り払えば、お金になりそうじゃなぁい?」
不二子はかもめの隣に滑るように座り、取り入るように肩を組んだ。かもめは考えあぐねたように瞳をぐるっと逸らす。それを見て、ルパンは頭を掻きながら、きまり悪そうに続ける。
「それなんだがな、不二子。」
ルパンは件の血のように赤いルビーのついた薬瓶を取り出した。
「コイツ、中身はすっかり蒸発しちまってる。」
「どういうことよ!」
「保管環境が良くなかったのか、成分を見極められるほどのサンプルは残ってないぜ。」
ルパンが蓋を開けると、中身はないとは思えないほど強い香りが鼻をついた。麝香のような、ローズのような、咽せるような濃い香り。ちょうど薬瓶に顔を寄せていた不二子とかもめ、五ヱ門が鼻を覆う。つまりそれ程の匂いだったのだ。
「ま、約束は約束。デートはしてもらおうじゃないの。」
ルパンがいつもの調子で不二子に顔を寄せる。いつもなら軽く遇らうであろうところだが、不二子は黙ったままだ。
「…あ、れ?…不二子ちゃん?どったの?」
「ふ…ふふっ…ふふふふ!」
肩を震わせながらガタッと立ち上がる。
「さぁ!ルパン!魔女集会に行くわよ!ワルプルギスの夜よ!」
「いや不二子ちゃん、今日はハロウィンでワルプルギスはまだ先…!」
途端に五ヱ門がめそめそと泣き始めた。
「無念でござる…無念でござる…」
「おい、どういうことだ?かもめ!」
「…にゃあ。にゃっ?!」
かもめは自分でも自分の言葉に驚いたようで、顔を真っ赤にして両手で口を押さえた。
「…どうやらマジモンだったらしいな、その薬。」
匂いを直に嗅いだ3人が、自分の衣装に影響されている。仕組みや成分はわからないが、どうやらその芳香が魔法を掛けるという由緒は確かなものだったらしい。こういう時に役立つ知見をくれる小さな相棒は、今はにゃあとしか鳴けない。
「おい不二子、五ヱ門!どこ行こうって言うんだ?!」
「言ったでしょう、魔女集会よ!」
「拙者…先祖の墓参りに…」
***