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物憂げな女が白いパラソルの下で所在無げに肩肘をついている。風が吹くと、つばの広い白い帽子がはためく。青い空をバックに、絵画のような構図で、思わず見とれていると、視線に気づいた女が、子供のように笑った。
「久しぶり。」
「おう。」
胸元に飛び込んできた勢いで、頭から落ちかけた帽子が風にさらわれるのを慌てて止めると、恋人は照れたようにえへ、と笑った。
「しばらく会わない間に雰囲気変わったか?と思ったら、相変わらずだな。」
「もう、それを言わせたくておめかしして来たのに。」
頰をぷくっと膨らませる女の頭に帽子を戻してやる。流れで懐かしい髪を撫でた。
「また髪が伸びたな。」
「うん。」
「待たせたか?」
「ううん。でも、待ち遠しかった。」
自然に腕を絡ませる。隣に並ぶ身長に無闇に嬉しくなる。かもめ。小さな俺の恋人。
***
呼び出されたのは1週間前。端末にメッセージが届いていた。
『電話してもいい?』
逐一挙動を報告するほどマメな付き合いではない。そしてチマチマとメッセージを打ち合うのは性に合わない。職業柄、急な電話だと出れないことも多く、着信だけが残っているとそれだけで相手を不安にさせかねないということで、とりあえず電話の前にメッセージを入れることが、付き合いの中でルールになっていた。
シャワーを浴びて寝るばかりになったタイミングで、そんなメッセージが届いたから、ベッドに寝転んだまま電話を掛けた。数回のコール音の後で、小さな声が囁く。
『もしもし。』
「よう。どうした。」
『別に…声聞きたくて。今何してた?』
「風呂から上がったところだよ。これから寝る。」
『そっか。手短にしたほうがいい?』
「うんにゃ、急がねぇよ。お前さんは何してた?」
『今外でお茶してたところ。』
今相手がいる場所を思い出しながら時計をぼんやり眺める。しばらく近況を報告し会って、途切れ途切れに沈黙が訪れ始めた頃、電話口でもぞもぞしている気配がした。
「何だよ。」
『あの、さ。会えないかな。』
「今更照れながら言うことか?」
『だって…やっぱりちょっと緊張するのよ。理由があって断られても、寂しいのは変わらないから。』
そんなかわいい言い訳をされて、もう会いに行かない選択肢はなかった。誘いを受けると、電話口の声はしみじみと嬉しそうに、プランはもう立ててあるからと告げた。言葉通りすでに色々いじらしく準備をしていたようで、電話を切った後で待ち合わせ場所の情報が送られてきた。何となく気が落ち着かずに、スーツケースを出したり、手持ちの一番上等な背広を探す。引っ張り出したところで、これではデートに堅苦しいとあいつに笑われるかな、と首をひねって、そう言えばどこにいくつもりなんだと頭を掻いた。電話を掛け直すのも気が引けて、短くメッセージを送ると、しばらくして返事が来た。
『水族館、なんて言ったら、次元には退屈?』
***
「久しぶり。」
「おう。」
胸元に飛び込んできた勢いで、頭から落ちかけた帽子が風にさらわれるのを慌てて止めると、恋人は照れたようにえへ、と笑った。
「しばらく会わない間に雰囲気変わったか?と思ったら、相変わらずだな。」
「もう、それを言わせたくておめかしして来たのに。」
頰をぷくっと膨らませる女の頭に帽子を戻してやる。流れで懐かしい髪を撫でた。
「また髪が伸びたな。」
「うん。」
「待たせたか?」
「ううん。でも、待ち遠しかった。」
自然に腕を絡ませる。隣に並ぶ身長に無闇に嬉しくなる。かもめ。小さな俺の恋人。
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呼び出されたのは1週間前。端末にメッセージが届いていた。
『電話してもいい?』
逐一挙動を報告するほどマメな付き合いではない。そしてチマチマとメッセージを打ち合うのは性に合わない。職業柄、急な電話だと出れないことも多く、着信だけが残っているとそれだけで相手を不安にさせかねないということで、とりあえず電話の前にメッセージを入れることが、付き合いの中でルールになっていた。
シャワーを浴びて寝るばかりになったタイミングで、そんなメッセージが届いたから、ベッドに寝転んだまま電話を掛けた。数回のコール音の後で、小さな声が囁く。
『もしもし。』
「よう。どうした。」
『別に…声聞きたくて。今何してた?』
「風呂から上がったところだよ。これから寝る。」
『そっか。手短にしたほうがいい?』
「うんにゃ、急がねぇよ。お前さんは何してた?」
『今外でお茶してたところ。』
今相手がいる場所を思い出しながら時計をぼんやり眺める。しばらく近況を報告し会って、途切れ途切れに沈黙が訪れ始めた頃、電話口でもぞもぞしている気配がした。
「何だよ。」
『あの、さ。会えないかな。』
「今更照れながら言うことか?」
『だって…やっぱりちょっと緊張するのよ。理由があって断られても、寂しいのは変わらないから。』
そんなかわいい言い訳をされて、もう会いに行かない選択肢はなかった。誘いを受けると、電話口の声はしみじみと嬉しそうに、プランはもう立ててあるからと告げた。言葉通りすでに色々いじらしく準備をしていたようで、電話を切った後で待ち合わせ場所の情報が送られてきた。何となく気が落ち着かずに、スーツケースを出したり、手持ちの一番上等な背広を探す。引っ張り出したところで、これではデートに堅苦しいとあいつに笑われるかな、と首をひねって、そう言えばどこにいくつもりなんだと頭を掻いた。電話を掛け直すのも気が引けて、短くメッセージを送ると、しばらくして返事が来た。
『水族館、なんて言ったら、次元には退屈?』
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