手のひらのウサギ2
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ジメジメしたベランダで、タバコを燻らせる。最近は日が随分と長くなって、太陽がしぶとい。時刻はもう深いのに、黒になりきらない紫色の空をぼんやり眺めた。
「で、手品はうまくできるようになったのか?」
傍で小さな植木鉢に水を掛けるかもめに声を掛けると、かもめはブリキのジョウロを地べたに置いて、何もない手のひらを見せた後、手を軽く叩いて、あっというまに2匹のウサギを出した。得意げにふふんと鼻を鳴らす。小憎らしいドヤ顔だ。
「お見事。」
「大泥棒直伝だもん。」
「なんでわざわざ覚えようと思ったんだ?」
「ふたりがしてくれて、嬉しかったから、私もいつか誰かにしてあげたいと思って。」
かもめはウサギを仕舞ってしゃがみ込み、植木鉢の枯れた葉を丁寧に剪定しながら答える。かもめの手は綺麗だ。隣にしゃがんで、軽く肩を小突く。
「俺にはしてくれねぇの。」
「次元はタネ知ってるじゃない。」
「俺のことは喜ばせたくないのか?」
「ばかね。」
かもめは剪定した枯葉をパラパラと灰皿に落としながら、喉の奥をコロコロと鳴らし、肩を寄せて甘えた。
「ルパンに教わって、五ヱ門には試したんだろう?俺だけ損じゃねぇか。」
「だって…次元の手触ると、どきどきしちゃって手品どころじゃないんだもん。」
空いている手で、指を絡ませると、かもめは甘い吐息を吐いた。そのまま唇を寄せる。初めは怯えるように体を震わせるばかりだったかもめは、最近では随分慣れて、控えめにだが、大人のキスを返してくる。柔らかく唇を食めば、絡ませた手を強く握り返した。そのまましつこく舌を絡ませると、小さく声を上げて顔を背ける。その顔が見たくて、真っ赤になった頰に手を添える。
「キスは一丁前になった癖に…顔が真っ赤になるのだけは、成長しねぇな。」
「次元のキス、えっちすぎ。」
正直かもめには不満ばかりだ、俺以外の男にも平等に柔らかく微笑むし、仕事仲間に対しては警戒心がまるで足りない。時々だらしがないし、何かあるとすぐ一人で抱え込んで危なっかしい。子供っぽい文句も言う。寝相も悪い。
だが、この溶けたような顔だけは、他のどの男にも見られないのだと思えば、そんな不満は吹っ飛んでしまう。
「…次元、今すっごい意地悪な顔してる。」
「生まれつきだよ。」
頰に手を添えたまま再び口付けした。かもめが腕を首に回してくる。キスが更に熱を持った瞬間。
ガサリ
二人で慌てて体を話すと、驚いたような野良猫の光る目玉と目があった。
「ベランダですることじゃなかったね。」
二人で決まり悪くはにかんで笑った。かもめは立ち上がりながら、またどこからとなく白いウサギを取り出して、軽くちゅ、と音を立ててキスをした。そのままそのウサギを俺の額に押し付け、人差し指を口元に添えた。
「…部屋で待ってる。」
追加だ、時々こうやってこっちのペースを乱してくるのも不満だ。心臓に悪い。額に押し付けられたウサギをぷにぷにと触りながら項垂れる。
「とんでもねぇウサギちゃんを相手にしちまったもんだぜ全く。」
年甲斐もなく熱くなった頰がすっかり冷えるのを待ってから、小さな白いウサギの背中を追いかけた。
Fin