続きは満月の夜に
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「次元にさわって欲しかったの。」
自分の手に小さな両手を重ねてかもめは消え入りそうな声で打ち明けた。
「髪も、肌も。きれいにしてたのは、ただ、さわってほしかっただけなの。」
「そいつぁ、初耳だな。」
ようやく出た気の利かない言葉が間抜けに響いた。
「言えなかったんだよ、そんなこと言ったら、次元は遠くに行っちゃうでしょう?」
その一言で、今まで関わってきた女たちの断片が、ガラスの破片のように鮮やかにちらついた。かもめが、俺の手を引く。指の先を導くように、頭、首筋、胸元を滑っていき、頰に戻ってきて止まった。同じ生き物とは思えないほど、滑らかで吸い付くような柔らかい感触に全身が逆毛立つ。心臓が手先に移動してしまったように脈打っている。
「ずっとどうしたらいいかわからなくて、でも、触れて欲しいって気持ちは抑えられなくて。」
もう止めることを諦めたように、小さな口からぽろぽろと言葉が溢れてくる。手を重ね合わせたまま、動かせない指にその髪を絡ませる。
「ねぇ、嫌だよ、傷つけたくないとか、巻き込みたくないとか、そんな理由で、突き放されるの。」
静かに暴れる心臓に、年甲斐もなく泣きたくなってくる。やっと自我を取り戻しかけた指を僅かに動かせば、かもめは大げさに瞳を揺らした。熱い頰を両手で包みこむと、その柔らかな頰の持ち主は、目を細めて、頰と相反するように冷えた両手を重ねた。目の端に涙を浮かべたままにっこりと微笑むので、こちらもつられて少し笑ってしまう。もう正しさや間違いを考える余裕はなかった。ただ目の前の女に応えたかった。
「なぁ、かもめ。俺は、お前が思ってるほど大した男じゃねぇよ。」
「…ねぇ、これ以上待たせる気なの。」
「そんな事言って、後悔してもしらねぇぞ。」
「後悔させないで。答えを聞かせてよ。私はやっぱり、ただの小さな女の子にしか見えない?」
「…お前さんは、確かに小さいが。」
洒落た返しが思いつかない。息がかかるほどの距離で、低く囁くのが精一杯だった。
「もう、ただの女の子にゃ見えねぇな。」
***