続きは満月の夜に
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今にも泣き出しそうな顔でおやすみを告げて、かもめは部屋を足早に出て行った。女の涙にはいつだって叶わない。誇れることじゃないが、女を泣かせた苦い思い出ならいくつかある。泣かせた女は決まって意気地なしと罵るか、当てつけのように別の男の所に行くかだ。どっちも御免こうむりたいが、自分のせいで天国に行かれるよりはましだ。だが、かもめの涙の原因は俺じゃない、違うはずだ。そうあってほしい。
目を閉じるとあの半べその顔が浮かんでどうにも眠れそうにない。かもめの部屋をノックした。
「おい…あんな顔されちゃ、こっちが眠れねぇだろう。」
返事はない。
「寝たのか?…入っていいか?」
『だめ!』
「…起きてんじゃねぇか。」
部屋は、明かりこそ付けていないが、窓からの月明かりでほの明るい。もぞもぞと動くので、かもめがベッドの上でシーツにくるまっていることがわかる。作業机の椅子を引っ張って、背を前にして座った。
「…何かあったのか?」
「何にもないよ。」
「映画のせいか?」
「違っ…いや、うん、そう。」
「今日のお前は嘘が付けねぇな?」
「…べ…別に何も…。」
「かもめ、お前の悪い癖だぜ。何かあるのに、何もなかったことにしやがる。」
かもめは何かに迷うようにしばらく黙っていたが、きちんと座り直してこちらを見た。まっすぐに目が合う。その真剣な目は濡れたように潤んでいる。すう、と息を吸って、かもめは続けた。
「気付いてないの? それとも気づかないふり?」
「…お前さんが急に女っぽくなったのは気付いてたさ。」
「そうじゃなくて、」
「何だよ。」
「すきなの。」
沈黙を怖がるように、震える声でかもめは続けた。
「友達とか、親愛とか、そういうのだろって、言うのはなしね。…すきなの、次元のこと。」
言葉を失った。間抜けに、ああ、気のせいじゃなかった、と思う。知っていたさ、と思う。返事のない俺に、奴は続ける。
「…次元から見て私って、やっぱり映画と同じに、小さな女の子なの?」
かもめの目から溢れた涙が、月明かりに照らされて静かに光った。
「次元の人生に巻き込んでもらうには、どうしたらいいの。」
***