続きは満月の夜に
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気を落ち着けようと、外に出てタバコを口に咥えると、手からさっきのクリームが香って逆効果だった。
奴の声色こそ平坦なものだったが、なめらかで華奢な背中、触れると震える肌と、頭の中をくすぐるような吐息、乱れた髪の隙間から覗く赤くなった耳が、香りに乗って鮮明に頭の中をめぐる。
「一体なんだってんだ、アイツ。」
『信頼してるだけだよ。』
アイツの言葉を反芻する。信頼なんかするんじゃねぇ。沸き立つ衝動に苛立ちが募る。しかし、からかうにしては勇気を振り絞ったような有様で、そのまま触れてしまえば壊れてしまいそうな繊細さだったことも忘れられない。
信頼の意味は何だ?
親兄弟のように思っているのか、はたまた。
空にはでかい月が出ていた。満月ではないようだが、14番目の月ってところか。暖かくなる兆しが出始めたとはいえ、夜はまだ冬の空気だ。肌寒さに震える腕を擦って、タバコをもみ消した。
部屋に戻ると、薄着のままのかもめが、真剣に映画を見ている。少し昔に流行った、殺し屋の男と堅気の少女の映画だ。無言でいるのも不自然な気がして、声を掛ける。
「またやってんのか。これ。」
「んー。」
随分と気の無い返事が帰ってきた。
「前も見てただろ、そんなに面白いか?」
「面白いっていうか、考えるのよ。」
「何を?」
「どうしたら良かったのかって。」
顔はテレビに釘付けのまま、かもめは座る位置をずらしてソファを開ける。その空いたスペースに腰を落とした。
「この映画、結局二人は別の道を歩んで、ヒリヒリ切ないエンドじゃない? どうにか泥臭く二人で生きていく方法はなかったのかなって、見るたび考えちゃう。」
「俺ァ、映画としては悪くない終わりだと思うがな。」
「映画としてはね。でもこれが本当だったら、ここで終わらないじゃん。お互いがいない人生を、騙し騙し生きていくわけじゃない? 一見この映画って切ないハッピーエンドだけど、私から見れば緩やかなバッドエンドなんだよね。」
「なるほどな。」
「次元はどう思う? どうすれば良かったと思う?」
問いかけに視線がぶつかった。答えに迷って、顎に伸びたヒゲを撫でた。
「俺はやっぱり、男の方に感情移入しちまうからな、惚れた女を自分の人生には巻き込めねぇ。これ以上の最後は思いつかねぇな。」
「…そっか、私は女だから、このコに感情移入しちゃうのかな。」
暫しの沈黙の後、本当に切なそうにかもめは呟いた。
***