風邪と夕陽の逃避行
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夕日に染まった赤い海で、白波が後へ後へと流れていく。次元はいつものように隣でタバコを燻らせた。コンテナの中でのんびりしていたら、すっかり具合が良くなったらしい。軽くため息をつくと、彼はタバコを消して肩を寄せてきた。無言だけど、その仕草で、ため息の理由を聞いていることがわかる。
「…元気がない次元、ちょっと可愛かったのに。」
「お前、縁起でもないこと言うな。」
「冗談だよ。元気になってよかった。」
「風邪なんざ引くのはごめんだがよ、お前に世話してもらうのは格別だな。」
「縁起でもないこと言わないで。」
ぶつかった視線に、軽く啄ばむようにキスをする。
「お前さん、強くなったな。」
「どうかな、次元の隣にいるために、必死だよ、私。これでも。」
彼の優しい視線に見下ろされてまた頰が熱くなる。気恥ずかしさを隠すために海に視線を投げた。夕日が赤くて良かった。沈んでいく夕日が、私の頰を塗りつぶしてくれる。後ろからそっと抱きしめられた。心地よさに涙が溢れそうになる。夕日も私の涙までは隠せない。しばらくずっとそのまま、沈む夕日としゅわしゅわと輝く波の軌跡を眺めていた。
「…冷えてきたな、戻るか。」
彼の向けた背に、思わずはっとする。
「ごめん、次元。上着に…。」
私が不慣れにかけたアイロンのせいで、彼の背にはちょっぴり妙なシワがついていた。
「ああ、これか。」
彼はそのシワのことは既に気づいていたようで、クスリと笑った。
「いいだろ、お前にかけて貰ったって分かるからな。」
「や…やめてよ、私がアイロンがけが下手くそみたいじゃん!」
いつもビシッと決めている彼の背中に私がつけてしまったシワは、なんだか私の印のようで、なんとも言えず気恥ずかしかった。私のつけた印を、彼は堂々と背中に掲げて、船内に戻っていく。
背中からで見えなくても、彼が白い歯を見せて笑っているのが分かる。慌ててその大きな背中を追いかけた。
Fin