風邪と夕陽の逃避行
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数台車を銃撃して、手配した運び屋の船に車ごと乗り込んだ。車を降りて、顔なじみに前金を投げつける。
「よろしくさん。」
「よう、久しぶりだなかもめ、あれがアンタの男かい?」
「どうかしら。」
曖昧に返事をする。次元は助手席に座ったままだ。やっぱりあまり気分は良くないらしい。帽子を深く被って、これ以上ないほど口角を下げている。
「乗ってきて早々なんだがな、やっぱり海上ルートも駄目だぞ。奴らが張ってる。」
「うわお。どうしろっていうの。」
「お代を戴いちまったからな。面倒は見るさ。」
運び屋の背に続くと、船に載った大型コンテナの一部の重い扉がズシリと開いた。輸送船でよくある、車両用のでかいコンテナだ。
「ここに隠れてなよ。」
***
「真っ暗だねぇ。」
本当に何も見えないほど真っ暗だった。隣に次元がちゃんといるか不安になって、暗闇に手を伸ばすと、やがて上着の布に触れた。
「具合はどう?」
「おかげさまで。」
「それは運転に関する嫌味?」
暗闇から彼の喉を鳴らすような笑い声が聞こえる。不服さと、大好きな彼の声に頰が熱くなる。
「まさか。素直な感謝だよ。」
「どうだか。」
「ま、運転はもう少し上手にならなきゃな。」
「タバコを咥えてないとそんな減らず口が漏れるのね?」
若干の立腹に姿勢を崩すと、足先が彼に触れた。
今二人は後部座席に並んで座って、コンテナの中。わざわざ後ろに乗ったのは、もしもの時脱出がしやすいようにだ。
こんな状況だけど、彼と落ち着いて言葉が交わせるのは久しぶりで、不謹慎に楽しい。彼の指が体に触れた。確かめるように腕のあたりをくすぐった後、腕を引かれて胸板に倒れこむ。
「治りがけが一番うつりやすいって言うじゃない。…うつったらどうするの。」
「その時は、俺が面倒を見るさ。」
仰向けになった彼に覆いかぶさる形でシートに横になった。彼の長い脚は狭いシートにはとても納まらなくて、曲がった足が股を割って絡まる。暗闇であることに感謝する。きっと私の頰は真っ赤っかだ。風邪でも引いたみたいに。
後頭部の髪を優しくかき分けて、大きな手が私を撫でる。落ち着く香りと、胸板の暖かさにため息が漏れる。彼の心臓の音が、私はとても好きだ。
「世話かけたな。」
「次元のお世話、楽しかったよ。」
「よく言う。」
ここ数日ずっと気を張っていた疲れがどっと押し寄せてきた。指先が自信なさげに頰に触れる。何も見えないので、されるがままにしていると、確かめるように指先が唇に触れて、やがてキスが落ちてきた。見えないので、意識の全てが触れ合った部分に集中する。何度しても慣れないキスは、今日はまた一段と体を痺れさせた。離れていく唇が寂しくて、名前を呼んだ時。
「次元。」
コンテナがゆっくりと開いていく。すっかり赤くなった夕日が差し込んでくる。目の前の男の頰が赤いのは、夕日か、私のせいか。コンテナを開いた顔なじみの運び屋がニタニタと笑った。
「お二人さん、ここはモーテルじゃないんだぜ。」
***